7回103球も「8回も行ける」 和田毅には“余力”があった…42歳が積み上げてきた裏付け

オリックス戦に先発したソフトバンク・和田毅【写真:竹村岳】
オリックス戦に先発したソフトバンク・和田毅【写真:竹村岳】

真後ろから見た近藤健介も脱帽「ビシバシ」…7回を投げ切ったのは2年ぶり

 ソフトバンクは8月31日のオリックス戦(PayPayドーム)に1-0で勝利した。先発の和田毅投手が103球を投げて7回無失点。今季最長イニングを投げ切り、9回の今宮健太内野手のサヨナラ打を呼び込んだ。2月に42歳を迎えたリーグ最年長の左腕。7回のマウンドには志願して上がったというが、ベンチではどんなやり取りがあったのか。「8回も行ける」と言うほどの“余力”には、裏付けがあった。

 初回は1死から宗、中川圭を連続三振と3者凡退で切り抜ける。球速も146キロと、立ち上がりから間違いなく球は走っていた。3回は先頭の茶野に右前打を浴びたものの、慎重に後続を斬った。4回、5回も走者を許しながら無失点。6回1死一塁では、森の飛球をキャッチした左翼・増田珠内野手から遊撃・今宮健太内野手を経由して一塁へボールが渡った。一走・中川圭が戻り切れずゲッツーとなり、ここでもゼロを並べた。

 6回を終えて84球も、7回もマウンドへ。1死から若月、紅林を連続三振に斬った。球速も144キロを計測していた。この試合2度目の3者凡退で、ベンチに戻ると藤本博史監督が待ち構えていた。がっちりと握手を交わすと、続いて森浩之ヘッドコーチ、斉藤和巳投手コーチが続々と和田のもとに訪れた。交代してからも、ベンチの最前列から野手を応援する姿も和田らしかった。

 6回を終えた時点でのベンチでのやり取りについて、藤本監督は「7回は藤井(皓哉投手)が準備していたんですけど、和田が『どうしても行きたい』って言ったので。自信があったんじゃないですか、今日のコントロールなら。素晴らしいピッチングでした」と絶賛する。和田の気迫を、後押しする形で7回のマウンドも託した。

ソフトバンク・藤本博史監督と握手を交わす和田毅(左から2人目)【写真:竹村岳】
ソフトバンク・藤本博史監督と握手を交わす和田毅(左から2人目)【写真:竹村岳】

 続投を志願した理由を、和田が語る。「自分的には行けると思ったので。『行きたいです』と言いました」。103球は、6月16日の阪神戦(甲子園)以来、今季最多タイ。7回を投げ切ったのは2021年6月6日の同戦(同)以来だった。それでも和田は、苦笑いしながら投手としての意地を口にした。

「8回も行ける余力もありました。球数も100球を超えていたので、さすがに8回は行かせてくれなかったです」

 仮に8回を投げ切れば、2017年3月31日のロッテ戦(当時ヤフオクドーム)以来だった。継投は投手の状態はもちろん、試合展開も重要な要素だ。0-0で試合が進んだこの日なら“8回の男”に定着し、8月25日の楽天戦(楽天モバイル)から間隔が空いていた松本裕樹投手を送り込むのはベンチとしても妥当な策だろう。9回のロベルト・オスナ投手の存在も踏まえると、オリックス打線を抑える算段はできていたはずだ。

 そんな要素を“無視”したとして、和田の状態だけで言うなら「今日が最後の登板だったら間違いなく行かせてほしかった」とキッパリ言う。残り29試合。「次の登板もあるので」と当然、次回登板を和田なりに見据えていたことも、降板を受け入れた理由となった。チームの勝利を最優先する男。勝ち星がつかなくとも、価値ある1勝を拾えたことが何よりも嬉しかった。

 調子自体は「めちゃくちゃいいってわけではない」と言うが、8月は中6日でローテーションを回り、これが4度目の登板。夏場を迎えてもパフォーマンスが落ちない理由も「昨オフからやっていることがいい方向に来ている。食事の方法、食べるものが少なからず影響がある。昨年よりも体の疲れ方が投げていて全然違う。今も体がバリバリ(に張っている)って感じではない」と胸を張る。積み重ねてきた全てが、この日のピッチングにつながった。

 今季一番とも言えるピッチング。そんな和田の凄さを証言するのが、6月2日の広島戦(PayPayドーム)以来、今季2度目の先発中堅を務めた近藤健介外野手だ。8月30日のオリックス戦で死球を受け、牧原大成内野手が登録抹消となったことで、穴を埋めるように中堅を託された。和田の投球を真後ろから見守り「本当もう、ビシバシでした。すごい42歳だなって」と目を丸くする。

ソフトバンク・近藤健介【写真:竹村岳】
ソフトバンク・近藤健介【写真:竹村岳】

 2回無死には森が放った打球にチャージをかけ、倒れながら好捕。「完璧というか、イメージ通り。ポジショニングもよかった」と振り返る。8回から左翼に移るまで、無難に守備機会をこなした。プロ12年目を迎え数々の先輩を見てきたが「稲葉(篤紀、日本ハムGM)さんとかもいましたけど、皆さんすごいと思います」と脱帽だ。バックの好守には和田も「大ファインプレー。あれがなかったら負けている可能性もあった」と感謝するしかなかった。

 8月25日に22歳を迎えたばかりの宮城との投げ合い。リーグ最年長となった今、原動力を問われると、ハッキリとした口調で答えた。

「ダメだったら終わるというか。先が見えているからこそ、1球1球を全力で投げられる。ここでもし肩が取れたら『あ、終わりだな』と思える年齢になっているので。本当に、投げることが今はすごく楽しいです。若い時とは違うやりがいを感じながらマウンドに上がっているので。若い子と投げ合うことも楽しいですしね。今の年齢だからこそ、こういう年齢だからこそ得られる、感じられるものがあります」

 自分の現役生活がいつ終わってもいいように、後悔のない毎日を過ごしている。だから和田毅が投げる球は尊く、その姿から生き様が伝わってくるのだ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)