2軍の雰囲気は「すごく良い」 選手を一丸にした筑後の投手会…森唯斗“完封勝利”の舞台裏

ソフトバンク・森唯斗【写真:米多祐樹】
ソフトバンク・森唯斗【写真:米多祐樹】

“プロ初”の完封勝利「8回に監督が来たので『うわ、交代かな』と思った」

 渾身の完封勝利の裏には、選手を一丸とした瞬間があった。ソフトバンク2軍は27日、ウエスタン・リーグの阪神戦(タマスタ筑後)に7-0で勝った。先発した森唯斗投手が106球を投げ3安打11奪三振で“プロ初”の完封勝利を挙げた。試合後、報道陣の前に姿を見せると「ナイスゲーム!」と第一声。2軍の士気を一気に高めたゲームとは。

 初回に失策で走者を許すも無失点。3回1死から片山に初安打となる中前打を許したが、危なげなく後続を断った。5回には無死二塁のピンチを招いたものの板山を左飛、北條、片山を連続三振に斬って取った。結果的に三塁すら踏ませず。9回2死から戸井をカーブで空振り三振に仕留めると、マウンドに歓喜の輪ができた。

 勝敗のみならず、選手に経験を積ませることなども大切なファーム。1人で投げ切るのは珍しいことでもあるが「行けるところまでというところだったんですけど、球数も少なく行けたので」と森は汗を拭った。完封に「うれしいです。海野(隆司捕手)がしっかりと引っ張ってくれた」と感謝も忘れなかった。

 小久保裕紀2軍監督も「ゼロやったら9回行かそうと思っていた。尾形(崇斗投手)も投げさせたかったですけど、代えるのは失礼ですね」と絶賛。それほどの内容だった。森も「8回が終わって監督が来たので『うわ、交代かな』と思ったんですけど。『もう1回行くぞ』と言ってもらえたので。スイッチが入りました」と感謝する。ゲームセットの後、内野手とハイタッチを終えるとすぐさま外野手に手を合わせに行く姿も、森らしかった。

 久々に顔を合わせた“キング”が、森を奮い立たせた。NPB通算234セーブを挙げたOBのデニス・サファテ氏が来日。1軍の試合前に声出しを務めるなど、チームメートとの再会を喜んだ。森はファームにいたが、嘉弥真新也投手とともにサファテ氏に会うためにPayPayドームを訪れた。「その刺激もあります。サファテに会って、もう一回頑張りたいって思いになりました」。会話の内容は「言えないです!」と即答したが「気にはしてくれているので。もう一回引き締めて。次の登板もあるので」とだけ語った。

 100試合を消化して首位に立つホークス2軍。首位攻防戦だった18日~20日のウエスタン・リーグ、オリックス3連戦(タマスタ筑後)で3連勝を飾った。サヨナラ、完封、1点差勝ちとチーム力を見せつけた3試合。18日以降、2軍は8試合で7勝1分けと進撃を続ける。チーム一丸となって戦えている理由を6年目右腕の尾形が説明する。

「オリックス戦が首位攻防戦だったので。森さんがミーティングで『もし3連勝できたら首位に立つ。3連勝できたら投手会を来週やりましょう』ということで、チームの士気を上げてくれました。みんなで“よっしゃ”って感じで3連勝できました」

 森が発案者となって、オリックス戦に向けて選手の士気を高めた。約束通り、26日の阪神戦後に筑後市内で食事会が開催された。田之上慶三郎、髙村祐両投手コーチがお会計の大半を支払ってくれたそうだ。「みんなでご飯を食べて、ワイワイして。奥村さん(政稔投手)がちょっと騒いで盛り上げてくれて」と尾形。森は先発前日だったが輪に溶け込み、その時間を楽しんでいたようだ。

 森の言葉が端緒となり、自然と一丸となっていったチーム。尾形も「いいチーム状態でずっと来ていて、勝ちに向かっている。ブルペンの雰囲気もすごく良い。『勝つだろうな』って感じで。みんな信頼していました」と首位攻防戦の雰囲気を語る。その中心にいたのが森だった。2軍でクローザーを託される尾形も、全幅の信頼を寄せる。

「(森の存在は)すごく大きいですし、何より、マウンドに立っている姿を見て、みんな感じているんじゃないですかね。1球1球、勝ちに向かっているというか。気持ちを込めて投げている姿勢を、2軍の投手も野手も感じていると思う。少なからず、僕はそういう姿勢でマウンドにいたいなって。ずっと森さんを見て思っているので。そこは言葉じゃなくて、マウンドの立ち振る舞いでみんな思っていると思います」

 1軍は4位の楽天に3連敗を喫し、2ゲーム差に。逆転優勝どころか、Bクラス転落の危機が迫ってきた。森は「あとはいつ呼ばれても……待つだけです」と言葉少なに意気込んだ。トンネルの中にいる1軍を、森唯斗が照らしてほしい。

(取材・米多祐樹 / Yuki Yoneda)