近藤健介が送った長文のLINE…「モチベーション」に苦しんだ伊藤大海を慮る優しさ

ソフトバンク・近藤健介(手前)と日本ハム・伊藤大海【写真:竹村岳】
ソフトバンク・近藤健介(手前)と日本ハム・伊藤大海【写真:竹村岳】

伊藤大海のピッチングに「球も走っていた」 WBCを経て深まった2人の関係性

 リスペクトを込めて、打席に立った。ソフトバンクは12日の日本ハム戦(PayPayドーム)に0-9で敗戦した。先発した高橋礼投手が5回6失点で2敗目を喫した。打線も、相手先発の伊藤大海投手に対し7回まで無得点。近藤健介外野手が「球も走っていましたし、変化球にキレもありました」と脱帽するほどの好投だった。元チームメートの伊藤との間には、2人にしかないストーリーがあった。

 初回2死一塁の対戦では、バットを折られ二ゴロ。続く4回無死では、9球粘るも中飛に終わった。6回2死一塁で立った打席では、伊藤の暴投で走者が二進しチャンスが広がる。しかし、最後は内角への変化球にバットが空を切った。

 昨オフに海外FA権を行使して、ホークスに入団した近藤。日本ハムはプロ入りから11年在籍した古巣だ。伊藤とは2年間チームメートで、2021年の東京五輪や今年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でも共に戦い、優勝に貢献した。「人見知りで、口数は多くない」と伊藤の人柄を分析する一方で「大舞台に強い印象がある」と、その強心臓ぶりには一目置いている。

 そんな伊藤に“異変”が現れたのは、シーズンが開幕してから。開幕して4試合白星がなく、4月19日のロッテ戦(エスコン)の6回には、マウンドまで全力で走って向かった。5月2日の西武戦(ベルーナ)で今季初勝利を挙げた時も「今日がラストチャンスだと思っていましたし、これ以上チームに迷惑をかけることもできない。腕がちぎれてもいいくらいの気持ちでいきました」とヒーローインタビューで言うほどだった。

 伊藤はWBCを終えて、モチベーションの置き方に苦労していたようだ。その様子は近藤にも伝わっており「苦しんでいるふうには見えましたし。あれだけの舞台であれだけの投球をして帰ってきたので。それなりに気持ちの整理がついていなかったのかなとも思います」。自身もホークス1年目で必死に戦う中で、伊藤のもがく姿を気にかけていた。内容は「覚えていないですけどね」と言うが、5月には伊藤に長文のLINEもしたそうだ。

 選手のモチベーションは、常に繊細な状態で保たれている。WBCは“国”を背負って世界一を目指すという、限られた選手しか味わえない大舞台だ。「燃え尽き症候群」という症状があるように、出場した選手のメンタルに影響があっても不思議ではない。近藤も「結果はついてこないところは、そこ(モチベーション)だと思いますし。本人の中で、なかなか消化しきれなかったんじゃないですか」と、シーズン序盤の伊藤を分析する。野球選手に限らず、突き動かしてくれる思いだけは見失ってはいけない。

「もちろん、それ(モチベーション)がないとやっている意味もない。何のためにやっているのかもわからなくなる。一番大事になってくるところですし、そこがあるってことは常に高みを目指さないといけない。(モチベーションが)そういう気持ちにもさせてくれるので、そこは大事なのかなと思います」

 近藤にとってはホークス1年目のシーズン。WBCの後も「僕は移籍してきているので、そんなことも言っていられない。そこにモチベーションがありましたし、強いチームに引っ張られてやらせてもらえているので。そこの苦労はなかったですね」とまた違った“熱”を持ち、スムーズに切り替えられた。

「ずっと一緒にやってきた仲間ですし、気になりますね」という日本ハムナインの存在。チームは移っても、愛着は変わるはずがない。この日の4回の打席。伊藤は声を出しながら、近藤に立ち向かってきた。「いつも通りではありましたけど、いい球がきていたと思います」と対戦を振り返る。8月5日(エスコン)では5得点を奪い、黒星をつけた相手。「気合が入っていたんじゃないですか。この前も僕らに負けていますし、2回同じ相手に負けられない気持ちもあったと思います」と伊藤の気迫は感じ取っていた。

 自分自身を取り戻そうとする後輩の姿を、打席から頼もしそうに見届けていた。今回はチームとして伊藤に敗れ白星を献上することになったが、真剣勝負だからこそ生まれる尊い関係性。次は必ず、近藤が勝ってくれる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)