「わかってると思いますけど…」の真実 和田毅とリチャードの意外な信頼関係

マウンドに集まるソフトバンク・リチャード(左)と和田毅(手前)【写真:竹村岳】
マウンドに集まるソフトバンク・リチャード(左)と和田毅(手前)【写真:竹村岳】

打線が3回に2点を先制…その直後にマウンドのベテランに声かけに行った24歳

 ソフトバンクは10日、楽天戦(PayPayドーム)に11-4で勝利した。先発した和田毅投手が5回2/3を投げて1失点の好投。42歳での6勝目はパ・リーグ史上初と、またしても記念すべき1勝となった。チームとしても落とせない一戦で緊張感もあふれる中、リチャード内野手からかけられた言葉で「和みました」という。

 和田は2回に2安打を浴びるも無失点にしのぎ、勝利投手の権利を得たまま6回へ。しかし「(斉藤)和巳さん(投手コーチ)からは『ナイスピッチング』とは言ってもらいましたけど『6回、最後まで投げてほしかったけどな』と、そういう話もいただいた」。1死二、三塁のピンチを招き、犠飛を許したところで津森宥紀投手にバトンタッチ。それでも、津森が浅村を打ち取り主導権を渡さなかった。

 打線は3回、甲斐拓也捕手の8号ソロなどで2点を先制。その直後のやり取りを、和田がヒーローインタビューで明かした。「2点取ってもらって守備に就くときに、リチャードがマウンドに来て『和田さんわかってるとは思いますけど、ここですよ』と」。展開を考えても的を射てはいるものの、パ・リーグ最年長でもある和田への24歳からの言葉には、スタンドからも驚きの声が上がった。

 後輩からの真っ直ぐな一言。42歳の和田は、どう受け止めたのか。

「普通に『わかっていると思いますけど……』って言われて(笑)。和みました。リッチー自身も、試合にも入っている証拠だと思います。“打つだけ”になっていないというか。自分もあの回は大事だと思っていたので、より気持ちも入りましたし、そこに年齢は関係ないと思います」

 さすがは自主トレで他球団も含めて何人もの後輩を受け入れるなど、選手の先頭を走ってきたチームリーダー。高卒6年目からの“激励”もスッと受け入れて、4回のマウンドに向かった。「守っている時もすごく声が出ていましたよ。クリ(栗原陵矢外野手)が出ていないわけじゃないですけど、マッチ(巨人の松田宣浩内野手)のような空気のあるサードで。ちょっと懐かしさもありました」。“熱男”と呼ばれた男に、背中を重ねていた。

 言語化も非常にうまいリーダーの和田と、沖縄出身でマイペースなリチャード。意外な組み合わせにも聞こえるが、和田は「だからいいんじゃないですかね」と笑う。今シーズン中も食事に出かけたことがあるといい「『もっとウエートしたら?』って話もしたり。そうしたらもっといい当たりがいくかも」と、和田なりのアドバイスも送っているそうだ。

 リチャードからの視点はどうだろうか。マウンドでかけた声に「お立ち台で和田さんが言ったんですか? 公(おおやけ)になっちゃいましたね……」と頭をかく。取材時に隣にいた吉本亮打撃コーチも、「アンビリーバブル」と驚きを隠さなかった。自分なりに低姿勢でかけたつもりが、「わかっていると思いますけど……」という言葉遣いになってしまったようだ。その意図は、グラウンドに立つ選手として、流れをつかむためだった。

「決して“上から目線”とかじゃなくて、点を取った後ってしっかりと抑えた方が流れ的にも、相手を制するというか。わかっていたと思うんですけど、考えすぎるのも和田さんだったらあり得るかなって思ったので。和田さんくらいのレベルになると、誰も言わないと思うので。でも孤独にはなってほしくないし。(反応は)『おお、わかった』って言われました、ちょっと笑っていたかなって思います」

 食事をともにしたのは、共通の知人がいたからだという。和田の存在に、リチャードは「カッコいいです。あれだけ地位も実績もある人ですけど、すごく足並みをそろえて話をしてくれる」と表現する。この日にマウンドでかけた言葉も、和田なら耳を傾けてくれるとわかっていたから。「それほど遠い存在じゃないというか。あの人だったら聞いてくれる」と、信頼関係があったからこその声かけだった。

 7回に藤井皓哉投手が3ランを被弾した後も、すぐに声をかけていた。「僕も打てない時に落ち込む。そういう時って誰かに話しかけてもらえることで、すぐに切り替えになるので」。これまでは気持ちのムラや、集中力に課題があったリチャードだが、試合に入れているのは、何よりも成長の証。憧れてきた“熱男”の背中を追いかけているからだ。

「マッチのような空気」は、和田からの最高の褒め言葉。「甲斐さんにも『打っても打たなくても松田さんはこういうふうにやっていた』と言われました。結果は伴っていないですけど、形からでも見せるというか」と、どんな時も前を向くように今は心がけている。現在の登場曲は、松田も使用していた近藤真彦さんの『ギンギラギンにさりげなく』。形からも姿勢からも、チームの力になろうとしている。

 松田のホークスでの最後の試合は、昨季10月1日のウエスタン・リーグの中日戦(タマスタ筑後)。リチャードも出場しており、試合後には松田が涙ながらにスピーチする姿を目に焼き付けた。「覚えています。それほど頑張ったから出た涙だと思います」。松田がホークスに残したものを、リチャードなりに感じて、受け継ごうとしている。打席だけではなく、全ての瞬間がアピールになる。

 チームは快勝したものの、自身は4打数無安打で打率.139。「ビジョンに数字が出るので、だんだん焦ってきますよね。意図的に目を逸らしたりしますけど。『打たないと』って思うと、マジで打てないので」と危機感は抱いている。打席はもちろん、守備位置から、ベンチから、前だけを向くリチャードに注目してほしい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)