イメージしてきた「支配下になったら」 渡邊佑樹が磨いてきた“一人一殺”の技術と心得

ソフトバンク・渡邊佑樹【写真:竹村岳】
ソフトバンク・渡邊佑樹【写真:竹村岳】

昨オフに楽天を戦力外で「公務員の勉強を」…8月を迎えた今の心境とは

 節目の時を迎えてしまった。7月が終わり、育成選手にとっては登録の期限を終え、今シーズン中の支配下登録を勝ち取ることはできなかった。その1人、プロ6年目、ソフトバンクに入団して1年目の渡邊佑樹投手の胸中に迫った。「仕方ないので、今できることをやっていかないと」と前だけを見て、今も鍛錬を積んでいる。

 山梨県出身の左腕。2017年ドラフト4位で楽天に入団した。楽天時代にも戦力外通告、育成契約などを経験して、2022年オフに構想外であることを告げられた。12球団合同トライアウトに参加した結果、ホークスから声をかけられた。春季キャンプではA組にも呼ばれるなどチャンスをもらったが、今季ウエスタン・リーグでは11試合に登板して0勝1敗、防御率7.71。結果を示すことはできなかった。

 シーズンが始まった時点では、支配下選手は67人。アルフレド・デスパイネ外野手の獲得、育成の木村光投手の支配下登録。そして7月28日、ダーウィンゾン・ヘルナンデス投手の獲得が球団から発表された。期限の直前で、埋まってしまった支配下の枠。渡邊佑自身もチーム状況を踏まえて、自分なりに“支配下になったら”という未来を想像していたつもりだった。

「僕なんて特に、支配下になったらすぐに1軍の戦力にならないといけない。木村光みたいに1年目で、“これから”っていう選手ではないので。(自分が)1軍ですぐに投げられる投手じゃないから、外国人だった。全体的に実力がないから、こうなっていると思うので。自分は野球が下手だったと受け止めて、もう一回やっていかないといけないと思っています」

 2020年から取り組み始めたサイドスロー。球界を見渡しても希少な“左のサイド”であることを、存分に生かして支配下を目指してきた。期待されるのは左打者を確実に仕留めるワンポイント起用。「1軍で投げるなら『僅差で左打者』というところで行かないといけない。そこのレベルになるまでは、僕は(支配下として)評価してもらえないと思う」と課題を受け止め、向き合ってきた。

 2017年から6年連続で50試合登板をクリアしてきた嘉弥真新也投手が、今季は16試合登板にとどまり、今もファームで調整している。右投げのオーバースローよりは、個性を発揮しやすい左投げのサイドスロー。「左打者に打たれたり四球を出したら、その次の右打者を抑えても意味がない。僕の場合は登板して、最初の打者は絶対に抑えないといけないので」と、先輩左腕の道のりも参考にしながら、自分の長所に磨きをかけていた。

 プロ6年目のシーズン。自身の成績についても「思い通りにはいっていない。それも含めて自分の実力です」と表情は冴えない。具体的に挙げたのは、制球面。ウエスタン・リーグでは計7イニングを投げて1四球ではあるが、「そこが一番足りていなかったです。真っ直ぐとか変化球のストライク率も足りていなかった」と自分に矢印を向けて振り返った。

 昨オフに楽天を戦力外となった時、「うっすらとですけど、公務員試験の勉強をする……とか考えていました」とセカンドキャリアも見据えていた。「野球しかないって嫌じゃないですか。それは賛否両論あると思いますけど、僕は嫌です」という価値観の持ち主ではあるが、ユニホームを着て支配下への可能性がある以上、野球を諦めるつもりは全くない。今の目標を問われて、キッパリと答えた。

「もし来年野球ができるとなったら、これ(経験)を無駄にしない方が絶対にいい。この期間も大事にやっていけたらと思っています。来年、契約してもらえるのなら、またアタマから競争して。なるべく早く支配下を目指していけたら」

 育成選手にとっても、8月を迎えたことはモチベーションにも影響するだろう。小久保裕紀2軍監督も「最後の印象も大事な話なんで、『8月9月の暑い時期に来年期待を持てるね』って終わるか、全然印象が違う」と背中を押す。渡邊佑も「1つの期限が終わったんですけど。だからといって、適当にやるわけがないので」と前を向く。プロ野球選手として可能性がある限り、戦力になることだけを追い求める。育成選手にとっては、秋だって大切な時期であることは何も変わらない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)