「あれで楽に」サヨナラ打直前にあったドラマ 周東佑京に柳田悠岐がかけた言葉

打席に入るソフトバンク・周東佑京(右)に声をかける柳田悠岐【写真:荒川祐史】
打席に入るソフトバンク・周東佑京(右)に声をかける柳田悠岐【写真:荒川祐史】

サヨナラ打を放った周東に二塁ベース付近で真っ先に抱きついたのも柳田だった

 劇的な幕切れだった。ソフトバンクは30日、本拠地PayPayドームで行われたロッテ戦に延長戦の末にサヨナラ勝ちした。0勝8敗で迎えた「鷹の祭典」最終戦。同点で迎えた延長11回2死満塁で値千金の一打を放ったのは、周東佑京内野手だった。「もう終わらせるしかない、と思っていました」。チームの思いを乗せた打球は左前に弾み、ベンチからチームメートは一斉にグラウンドになだれこむ。真っ先に周東に抱きついたのがキャプテンの柳田悠岐外野手だった。

 延長11回、先頭の川瀬晃内野手が四球で出塁。今宮健太内野手が犠打を決めると、牧原大成内野手は敬遠され、増田珠内野手が左前安打で繋いでできた場面だった。2ボール2ストライクからの5球目、澤村が投じた真っ直ぐを弾き返すと、打球は三遊間を抜けて左前へ。周東の約1か月ぶりの安打が殊勲の一打になった。

 この打席の直前だった。ネクストバッターズサークルにいる周東に、次打者の柳田が近づいて声をかけた。

「フォアボールでもええんやで」

 状況は同点で2死満塁。ヒットを打てなくても、四球でも押し出しで試合は決着する。なんてことのない一言だったが、サヨナラの絶好機を前に気持ちを昂らせる周東にとって気持ちを落ち着かせる一言になった。

「あれでちょっと楽になった部分はあります。ああ、確かに、と思って、周りが見えるようになったところはありますね」

 四球でもいい――。さまざまな可能性を頭に入れ、打席でも自分に言い聞かせていた。「大丈夫」「スプリットでも当たる」。自己暗示をかけるように己を説き、歓喜の瞬間を導き出した。ナインが一斉に駆け寄ってくる。先頭を走るのは、少し前に助言をくれた主将だった。

 8回に同点に繋がる適時二塁打を放った柳田自身は、サヨナラ打に「しっかり決めてくれて良かったと思います」と、熱戦に終止符を打ったことに感謝。周東はそんな柳田の心中を「試合が終わってくれて良かったと思っているんだと思います」と代弁し、イタズラっぽく笑っていた。

 柳田だけではない。自分に期待してくれる多くの人の思いに応えたかった。なかなか1軍での出場機会に恵まれない日々に「監督にも『早く結果を出してスタメンで出て欲しい』と言っていただいていますし、(中村)晃さんにも『いつまでもベンチに座ってんじゃないよ』って言われるので、なんとかしないといけない気持ちはあります」と言う。

 周囲からの言葉のひとつひとつが、原動力になる。そんな柳田をはじめとするチームメートたちが喜ぶ姿を見て「嬉しかったですね」と頷いた。「鷹の祭典」初勝利をつかんだ一打には、仲間たちの思いもたくさん詰まっていた。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)