周東佑京の“神走塁”は「S級」 カメラマンさえ唸らせる速さと凝縮されるプロの技術

“神走塁”を見せたソフトバンク・周東佑京【写真:竹村岳】
“神走塁”を見せたソフトバンク・周東佑京【写真:竹村岳】

筆者が撮った“神走塁”の写真はピントも甘く悲惨な撮れ高に…

 この写真、撮影者は筆者である。そして筆者の本職はあくまでも「執筆」であり「撮影」ではない。筆者の拙い撮影技術をテーマにするのは少し恥ずかしいのだが、プロ野球を取り巻く「技術」はやっぱり凄いと痛感させられたので、コラムとして書かせてもらった。予想を遥かに上回った“神走塁”の話だ。

 野球の試合は、カメラマンの方々にとって一瞬も逃せないシーンの連続だ。投手と打者には基本的にレンズを向けているが、野手のファインプレーや、ベンチでの選手の動き、首脳陣が一瞬だけ見せる表情など、写真が切り口になるような場面もある。それらを切り取るカメラマンには、プロとしての技術が詰まっている。

 場面は6月28日の楽天戦(PayPayドーム)。2-2の8回1死満塁、三塁走者が周東佑京内野手で、打者は甲斐拓也捕手だった。その初球、変化球がワンバウンド。捕手が弾き、投手のカバーが遅れているのを確認すると周東は猛然とホームベースを目指してスタートを切り、一気に本塁を陥れた。“神走塁”でチームを勝利に導いた。

 筆者は普段、記者席から戦況を見ている。ただ、この日は事情によりカメラマンが不在。8回に周東が代走で出てきたためバックネット裏に向かった。二盗を決めると信じてレンズを向けたが、結果的に周東は上林誠知外野手の犠打で二塁へ進み、今宮健太内野手の左前打で三塁へ。ここまでは自分としても想定内だった。

 迎えた8回1死満塁。周東の走塁技術が生み出すあらゆる可能性を、想定していたつもりだった。そして、投じられた初球。甲斐に対してレンズを向けていると、ボールを捕手が弾くとともに大歓声が聞こえた。本塁に突入してきた周東を追いかけてシャッターを切ったが、結果は、ピントも甘く、この有り様だった……。

 予想を遥かに超える走塁、悲惨な“撮れ高”となり、反省するしかなかった。周東自身も「体が勝手に反応したので『行っちゃえ』って思って」と、セーフだとある程度確信した上で、咄嗟の判断だったことを明かす。周東が持つスピードと技術は、予想を遥かに超えていた。

 懇意にさせていただいているカメラマンさんに、アドバイスを求めてみた。「一番ダメなのは、あれもこれも撮ろうとすること」。大切なのは状況に応じて優先度をつけることで、それは選手のネームバリューにも影響される。「周東君は自分たちでも『特別』だし、他の代走とは違う。“S級”の選手だし、WBCもあってもっと重要な選手になった」と周東の存在を語る。

 甲斐にレンズを向けつつ、何かが起きればそっちにフォーカスを変えるのがセオリーだと思っていたがそもそも認識が違っていた。周東がどれだけ特別な“ランナー”であるか意識はしていたが、想像以上だった。「周東君は本当に速いし、相手も焦る。そうなるとミスが起きて、いい走塁が生まれやすいんだよね」。周東の足は常に想像を超えてくるということをプロのカメラマンさんはちゃんと分かっていた。

 この会話は、センターのカメラ席でしていた。隣で座っていたのだが「こことそこでも全然違うから」という。カメラマンさんにとって“泣きたくなる”のが、人が被ってしまうこと。仕方のないことだが、いいタイミングでシャッターを切っても、審判や相手野手と被って表情が見えない時が多々ある。「こればっかりは仕方ない」というが、万全の準備を済ませて最高の瞬間を狙う。「いい写真」にはプロの技術が詰まっているのだ。

 幾度となく、好走塁でチームを勝たせている周東。まさに“お金を払う価値”のある走塁だ。そうしたプレーの瞬間を切り取り、感動を与えるカメラマンさんもそれは同じ。それぞれの技術に最大限のリスペクトを込めて、自分もプロとして仕事がしたい、と強く思った。

(竹村岳 / Gaku Takemura)