「ダメだったら終わり」登録期限まであとわずか… 渡邊佑樹が直面する現実と覚悟

ソフトバンク・渡邊佑樹【写真:上杉あずさ】
ソフトバンク・渡邊佑樹【写真:上杉あずさ】

「与えられた場所で、投げさせてもらえる試合でやるしかない」

 新天地で育成選手として再出発した左腕は今、何を思うのか――。昨季限りで楽天を戦力外となり、12球団合同トライアウトを経て、今季からソフトバンクのユニホームに袖を通している渡邊佑樹投手。春季キャンプではA組でアピールするも、シーズンが開幕してからは2軍でも思うような結果を残せていない。

 移籍後“初登板”となった3月19日のウエスタン・リーグ中日戦では1/3回で4点を失い、黒星を喫した。それ以降、チャンスは多くなく、ここまで2軍では8試合に登板して防御率11.57。現在は主に3軍での登板が続いている。渡邊佑は「状態的には良くなっているんですけど、3軍なので。思い描いた感じではない」と静かに悔しさを滲ませる。

 3軍では20試合に登板して防御率は0点台。ただ、相手は独立リーグの選手がほとんどで「普通に抑えないといけないと思っています。3者凡退が普通っていう思いはあります」と手応えはない。11日の四国IL香川戦では、無死満塁のピンチでマウンドに上がると、死球を1つ与えたものの、三振と投ゴロ併殺で火消しに成功。どんな場面でも、3軍で結果を出すのは“当たり前”でなければならないと心得ている。

 月末が支配下登録の期限となる7月を迎え、3軍にいる現実を突きつけられる。それでも、焦りや不安でナーバスになるというわけではない。「与えられた場所で、投げさせてもらえる試合でやるしかないんです。そこで1試合1試合無駄にせず、結果を出していければなと」と冷静だ。

 渡邊佑には“経験”がある。2017年ドラフト4位で楽天に入団したが、2020年オフに戦力外となって育成契約に。そのオフ、サイドスローに転向すると、すぐに結果が出て、わずか1か月で支配下に“スピード復帰”を果たした。「結構上手く行きすぎていたというか、自分でもあんなに早く、開幕前の2月のうちに(支配下に)戻れるとは思っていなかった。トントン拍子でした」と当時を振り返る。

 そこから2021年、2022年と2年間プレーしたが、昨オフに再び戦力外となった。一時は野球を辞めることも考えた。独立リーグなどで野球を続ける選択肢は全くなかった。トライアウトも受けないつもりだったが、「楽天のプロスカウトの方に『2球団くらいからトライアウトを受けないのかと言われている』と言われたんです。そう言って下さる球団があるのであれば」とトライアウトを受けたことで、現役続行の道が開けた。

 苦労人だからこそ現状に悲観したり、慌てたりすることもない。どっしり構えて、自分自身に矢印を向けて黙々と日々やるべきことに取り組んでいる。とはいえ「ここでダメだったら終わりだと思う」と、置かれた立場を理解し、覚悟もしている。「やっぱり人が多いんで、2軍で投げるのもなかなか順番っていうか回ってこない。でも、そこは分かっていたことなので、しょうがないというか自分の実力だと思うので、それ受け止めてしっかり1日1日やっていければ」と、ホークスの競争の激しさも身を持って感じている。

「新しい環境だったり、人だったり、自分の知らない世界、やっぱり1球団だけじゃわからないこともある。いろんな人に出会えたっていうのは一番自分の中で大きいと思います」。ホークスに入団しての収穫をこう語る。現役ドラフトで、元楽天の古川侑利投手がホークスに加わったのも縁。「キャンプで誰も知っている人がいない状態だったんで、古川がいてくれたのはとてもありがたかったです」。そんな同級生とは遠征先で食事に行ったりもするよき仲間だ。

 刻一刻と期限は迫ってきている。「僕が焦ったからってどうなるものでもないので、本当に投げられる試合を確実に抑えていきたいです」。静かに燃える左腕は、ブレずに前だけを見て腕を振る。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)