左打者8人並ぶも柳町達がスタメン落ちした理由…長谷川勇也コーチが求める“明確な意思”

ソフトバンク・柳町達【写真:竹村岳】
ソフトバンク・柳町達【写真:竹村岳】

直近の2試合で柳町は無安打…首脳陣が明かした理由と求める“悪いなり”の打撃

 スタメンに左打者が8人も並んだ。ソフトバンクは5日の日本ハム戦(PayPayドーム)に5-1で勝利した。初回に3点、2回に2点を奪い相手先発の鈴木を攻略。藤本博史監督も「(序盤の)攻撃は見事にハマってくれました」と手応えを感じる攻撃だった。左打者を苦手とする下手投げの鈴木対策として組まれたスタメンの中で、柳町達外野手がベンチスタートとなった理由に迫った。

 初回、まず先頭の中村晃外野手が中前打で出塁する。敵失も絡んでチャンスを広げると、近藤健介外野手、柳田悠岐外野手が連続で適時打。さらに1死満塁で上林誠知外野手の二ゴロの間にもう1点を追加した。2回も1死二、三塁から近藤が左中間を破る2点二塁打。ここで鈴木は降板となり、左打者を並べたことが奏功した。

 今宮健太内野手すら外したスタメン。6月30日の西武戦(ベルーナD)の試合前に藤本監督は柳町について「競争している選手じゃない。5番、6番打ってるんですよ。柳田がDHの時は間違いなくレギュラーで出るくらいの内容は出してくれている」と評価していた。相手先発の鈴木は右打者被打率.118に対して左打者被打率.290。左打者に期待される試合展開の中で、なぜ柳町はスタメンから外れたのだろうか。

 試合後、森浩之ヘッドコーチはこう語った。

「上林が打つんじゃないかと思って、監督と話しただけのこと。柳町がどうのこうのじゃなくて、上林の方が(バットに)引っかかって長打が出るんじゃないかというこちらの考え」

 この日のベストオーダーを模索する中で、鈴木との相性を考え、柳町を外す答えに至った。そして、柳町はまだ競争の渦中にいることを強調する。「当たり前ですよ。今日は今宮だって外れているくらいなんだから。今(状態が)いいヤツを、打てるんじゃないかと、こっちが考えながら使っていくだけのこと」と続けて説明した。

 柳町は2日の西武戦、4日の日本ハム戦と2試合連続で無安打で打率.254となった。6月の月間打率は.241で、打撃の調子自体も下降線をたどっているのか。長谷川勇也打撃コーチに聞いた。起用の最終的な決定は指揮官がするだけに「ヒットが出ていなかったらそういう評価は受けると思う」という。そして「うーん……」と慎重に言葉を選び、自分なりの考えを示した。

「確かに、競争の中にいる選手だと思いますけど、悪かったら悪かったなりになんとかしないと。自分のいい感覚、いい状態でしか打てなかったら、プロ野球はやっていけないから」

「昨日(4日)はね、練習中から良くなかったんですよ。ティー(打撃)をやっている時から悪いなって思った。ゲームもあんまり良くないだろうなって感じはしたけど、調子が悪くても、持っているものの中でなんとかしないといけないのがゲームなので。『どうするのかな』って思ったら、その試合への工夫はなかったかなって感じです」

 長谷川コーチは通算1108安打を放った。若手時代、特に大切にしていたのは凡打の内容。たとえ凡退する中でも首脳陣に「使える」と思わせ続けないと、スタメンのチャンスをもらえなかったからだ。柳町の凡打の内容について問われると「良くないわけではない」と言い、競争にいる若手も含めて、長谷川コーチに見えている“景色”を話してくれた。

「(柳町は)明確な意思が打席の中で見えない。『あ、こういうことをやろうとしていたんだ』『やろうとして失敗したんだ』っていうのは、まだ読み取りづらいですね。自分のプランはある程度あると思うんですけど、自分の意思はもうちょっと強さは出してもいいと思う。『自分はこうしたいんだ』っていう意思を明確に持てればいいんじゃないかと思いますけど」

「今日の試合で、何をするのか、どうやったら打てるのかっていうのを自分なりにプランを描いて。『今日だったらこれをやろう』っていうのが、まだまだ固まっていない選手が多いから。打ち取られたとしても『やろうとして失敗したんだ』っていうのがあれば次への課題も出ますけど、“なんとなく”だったらいつも通りの繰り返しになってしまう」

 プロ野球において戦うのはチームではあるが、個人でもある。その中でも首脳陣に対して“使える”と思わせ続けることがレギュラーへの明確な道筋であり、それが目に見える“信頼”に繋がる。「10か0っていう選手が多い。0の次の日ってやっぱり使いづらい」と長谷川コーチ。凡打の内容はもちろん、その裏にある意思が伝わらなければ、スタメンを考える“テーブル”にもなかなか上げられない。

“今日は自分はこうするんだ”という打席内でも貫くアプローチ。長谷川コーチは現役時代、どんなことを頭に入れながら、レギュラーへの道を一歩ずつ歩んでいったのか。

「そこはいろんな方法がある。1、2打席目に凡退して3打席目、配球をめちゃくちゃ考えるとか。この球種だけに絞るってパターンもあるし、ポイントをめちゃくちゃ手元まで引きつけるってこともした。メンタル的な要素でも、開き直るために1、2打席目のことを全部忘れて『3打席目が今日の俺の1打席目や!』って思い込んで入るとか。そういう技術も、メンタルの要素でのアプローチでもなんとかするっていうのはありました」

 プロ野球選手にとって、1分1秒、生活の全てがグラウンドでの結果につながる。姿勢と結果で信頼を積み重ねて初めて、周囲にも認めてもらって、レギュラーへと駆け上がっていける。

(竹村岳 / Gaku Takemura)