【連載・甲斐拓也】打撃が上向き始めた舞台裏 キッカケになった王貞治会長との“食事会”

ソフトバンク・甲斐拓也【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・甲斐拓也【写真:荒川祐史】

まだ打率が1割台に低迷していた5月下旬、王会長から食事の誘いが…

 鷹フルがお届けする主力4選手による月イチ連載、甲斐拓也選手の「7月前編」です。今回のテーマは「打撃復調の裏側」。交流戦で3本の本塁打を放つなど、6月の月間打率.267と打撃の状態が上向くキッカケが、王貞治球団会長との食事会にありました。その時にかけられた言葉が明かされます。

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 交流戦が終わり、再びリーグの戦いが始まった。ホークスは70試合を終えて41勝27敗2分け。2日の西武戦(ベルーナドーム)で今季2度目の5連勝を飾り、オリックスを抜いて首位の座を奪い返した。正捕手としてマスクを被る甲斐も「とにかくカード勝ち越しを僕も、チームとしても目指してやっています。うまくいっていることもあれば、日々反省もしているという毎日です。ピッチャー陣も頑張っていますし、投打ともに歯車が噛み合ってきた感じはします」と最近の戦いに手応えを感じている。

 課題とされたバッティングの面でも、変化が見られるようになってきた。5月上旬には.148まで落ち込んだ打率がジワジワと上昇。7月2日の西武戦を終えた時点で.228となっている。6月9日、10日の巨人戦で2試合連続本塁打を放ち、交流戦が終わってからもコンスタントに安打が出ている。6月は打率.267、3本塁打8打点。ここまでチームで5番目となる25打点をあげており、バットでの貢献も光っている。

「とにかく積極的に、むやみに振るとかではなく、自分の頭の中でしっかり整理して、打てる球が来たら自分の打てるタイミングで打とうというのがまず第一にある。今までは余計なこと、変なこと、色々なことを考えて『振らない方がいいかな』とか『見逃そうかな』とやっているうちに、打てる球も打てなかった、手を出せなかったっていうのがあった。空振りを怖がっていたんですけど、とにかく空振りを怖がらず、初球からしっかりタイミングを合わせていこうというのが一つですね」

「もう本当にいろんなことを考えすぎていたんで……。そうなると振れなくなってしまって……。そのうちに空振りするのも怖くなるし。ただ結局、この1打席は自分の打席なんだから、しっかり自分の考えたように頭を整理して打席を送ろうというふうに今はやっているんで。初球から振ることもありますし、もちろん頭の整理をして、待ち球を考えたりとかっていうのはもちろんしています」

 昨季は出塁率のアップを目指し、四球の増加や右方向へのバッティングに取り組もうとした。ボールを選ぶことに意識が行きすぎるあまり、甘い球にも手が出なくなった。その結果、打率はレギュラー定着後で最低の.180に低迷。四球数も結果的に前年から減り、アップを目指した出塁率も.275に終わった。今季も5月4日時点で打率は.148まで落ち込んでいた。

 浮上のキッカケを与えてくれたのは王貞治球団会長だった。5月下旬、甲斐は王会長に声をかけられて食事に出かけ、その席で「いろんな話をさせてもらった」という。打撃面でも助言をもらい、王会長直々に「積極的にいけばいいんだ」「結果なんて後から付いてくるんだから、凡打でもいいんだよ」「相手に向かっていくってことが大事なんだよ」と語りかけられたという。

 さらに、甲斐の胸に沁みたのは、王会長からの熱い気持ち。「俺は甲斐に打って欲しいんだよ」――。食事を共にして響いた言葉。「そう言ってもらえたのは嬉しかったです」。なんとか期待に、思いに応えたいという気持ちがより一層強くなった。

 長谷川勇也打撃コーチと、吉本亮打撃コーチにも背中を押してもらった。特に吉本コーチとは食事に出かけて思うことをぶつけた。「自分のバッティングをどうしたいのか、どういうイメージで振ってるのか、と話を聞いてもらった」。映像も見ながら、自身が考えるバッティングのイメージを伝え「そうしたらいいじゃないか」と後押しされた。

「自分のバッティングというか、自分がある程度こうしたいっていうものを押してくれた。これを維持して、とにかく続けていって、今の形をやっているっていう感じなんで、その中でヒットが出てるっていうのはいい部分なのかなと思っています」。少しずつ結果が出始めた打撃面。上向き始めた状態には本人の努力はもちろん、周囲からの支えもあった。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)