【連載・板東湧梧】和田毅からの“愛ある”メッセージ 後輩が「迷い込んでいる」という課題

ソフトバンク・板東湧梧(左)と和田毅【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・板東湧梧(左)と和田毅【写真:藤浦一都】

昨オフに板東から和田に自主トレのお願い…「板東が打たれる時は…」

 鷹フルがお届けする主力4選手による月イチ連載、板東湧梧投手の「6月後編」です。今回は趣向を変えて、板東投手が1月に自主トレをともにした和田毅投手に、板東投手について語ってもらいました。評価や起用を決めるのは「監督や首脳陣」という大前提で、あくまで和田投手なりの個人的な目線です。食事を楽しむ中で伝えた、投手の「間合い」の大切さとは……。板東投手の次回連載は7月24日(月)に公開予定です。

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 6月上旬に、和田は板東と藤井皓哉投手を連れて食事に出かけた。そこで野球の話題になり「藤井が打たれる時、板東が打たれる時のイメージは“こう”だよっていう話をしました。板東の場合は、間合いなのかなと思います」と伝えたという。投手における“間合い”とは板東にとってどんな課題だというのか。和田なりの意見を話してくれた。

「自分のペース、自分の間合いで投げていないというか。自然と相手の間合いで投げてしまっている感じがして。これはもう感覚でしかないですけどね。最近は良くなってきていると思うんですけど、『自分の間合いにしよう、しよう』として、今度は間合いではないところに自分で迷い込んでいるところはあると思います」

 投手は時に、走者がいなくてもクイックモーションで投げたり、同じ球種でも球速差をつけたりなど、打者のタイミングを外そうとする。「相手にタイミングを取らせないことが一番大事。テンポよく投げることも、相手に主導権を握らせないこと」。投手対打者の勝負はもちろん、打線が逆転した次のイニングなど展開の中でも絶対に抑えたい場面、さまざまな領域で「間合い」は存在する。そこを明確に意識してマウンドに立つことが大事だと和田は言う。

「昨年の板東っていうのは相手チームも見ているし、研究してきている。頭の中でイメージしての今年の対戦になるので、タイミングが合えば、ヒットにされる確率は高くなってしまう。どれだけ、いろんなことで相手の間(ま)に入らせないこと、気持ちよくスイングさせないことが大事だと思う。それをフォーム、変化球でずらすのか、クイックで投げたりしてずらすのか、色々あると思います」

 間合いの例えとして和田は、「剣道」を例にした。相手の気配を読み、一瞬の判断で勝敗が決する剣道。板東と剣道をしたとしても「僕だったら絶対に勝てるなって」と、不敵に笑う。野球に置き換えても「投手は攻めですから。打者は必ず受け身なので、どこを狙っているのか悟られないように投げるのが一番大事」と、1対1の勝負で共通していることは多々あるという。

 和田は今季が21年目で、日米通算160勝を誇る。間合いを覚えていったプロセスに「これは数をやっていくしかない。経験をしていかないとわからない部分ももちろんある」と、乗り越えてきた“修羅場”の数が自分を成長させてくれた。さまざまな要素を踏まえ、全く同じ状態の試合は2度とない。「自分でも知らず知らずに相手のタイミングに入っているところはある」と、間合いは今の和田にとってもテーマの1つだ。

 パ・リーグ最年長の42歳ではあるが、昨季には自己最速の149キロを計測した。大ベテランではあるが、直球を軸としたピッチングはまさに「本格派」だ。和田の口から「間合い」という言葉が出たのは少し驚いたが「球が速くても間合いっていうのは大事。意外に、マウンドで同じフォームに見えても間合いは変えているつもりです。相手に悟られては意味がないので」と、ミリ単位の勝負を繰り返している。

 板東は6月25日のオリックス戦(PayPayドーム)で4回1/3を投げて3失点で今季1敗目を喫した。2度の先発で5回を投げ切れず、中継ぎとは違った壁を乗り越えようとしている。和田も「中継ぎはある程度、ボールの強さで抑え込める。長いイニングを投げるとなると、そのフォームやピッチングで6回とか8回も投げないといけない。そこの難しさじゃないですけど、変えていかないといけないことはある」と、間合いが1つの鍵にきっとなる。

 板東は5日の日本ハム戦(PayPayドーム)での先発登板が予定されている。次こそが“3度目の正直”だ。和田も起用などには「それは僕が決めることではない」とした上で、大事にしてもらいたいことを話してくれた。プロの世界で21年目を迎えた大先輩からの金言だ。

「一番大事なのは、ずっと上で投げ続けること。全ては結果で決まるので、いい投球をしようが悪い投球をしようが、結果で判断されるのがこの世界。その中でも結果を出しながら内容を高めてほしいし、それが伴えば1軍で投げられるチャンスがあると思う。彼の場合はそれを続けられれば、1年間ずっと投げられるような存在になれると思うし。大きな波なく続けていくことが、先発ローテーションで投げ続けるための大事なことだと思うので」

「2軍だと成長できないわけではないですけど、1軍にいないと成長できない部分があると思います。2軍でできる部分もあるけれど、1軍のマウンドで投げるからこそ成長ができる、得られるものが必ずあると思うので。だから上で投げることって難しいですし。難しいですけど、投げれば当然、成長していけると思うので」

 ルーキーイヤーの2003年に新人王に輝くなど、1軍の戦力になり続けてきた和田が言うから説得力がある。板東をはじめ、まだまだ後輩たちにとって高い壁、最高の先輩であり続ける。ユニホームを着ている一瞬一瞬が、これ以上ない“生きる教材”だ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)