まず身につけるべきは“投げる体力” 中田賢一4軍投手コーチが語る4軍の現状

ソフトバンク・中田賢一コーチ【写真:上杉あずさ】
ソフトバンク・中田賢一コーチ【写真:上杉あずさ】

毎日行う15分間のキャッチボールができない選手たちも…

 ソフトバンクは今季から新たに4軍制を敷いた。その4軍で投手コーチを務めるのが、2021年に現役を引退した中田賢一コーチだ。3月7日に九州共立大と初の対外試合を戦い、その後、徐々に3軍との差別化が進んできた4軍の現状を語ってくれた。

 本格的に3、4軍の区別が見え始めたのは3月末になってからだ。4月3日にはタマスタ筑後で“ホーム開幕戦”を行った。昨季、3軍戦は140試合組まれたが、今年は3、4軍合わせて229試合が予定されている。育成段階の選手たちも、多くの試合経験を積むことが可能となる。

 実戦の中でしか学べないことも当然ある。ただ、中田コーチはそれ以前に「プロは常に試合で投げ続けていかないと」と、体力の重要性を選手たちに伝えている。アマチュアでは公式戦が行われる時期は決まっており、それに合わせて状態を上げていけばいい。だが、プロではオープン戦の始まる2月末から日本シリーズやフェニックス・リーグの終わる11月頃まで投げ続けなければならない。

 そのため、4軍の練習は、毎日15分間のキャッチボールから始まる。難しいことではないように聞こえるが、これができない選手も多いのだという。「まずアマチュア時代に(毎日投げ続けることを)やっていない子も多くいて、元々の投げる体力がない選手がほとんどです」。毎日キャッチボールをするだけで、翌日に張りが強く出る選手もいる。

 例えば、育成ドラフト4巡目ルーキーの内野海斗投手。出身の武田高(広島)は進学校ということもあり、キャッチボールは週に2回程度だったという。「まず毎日15分しっかりやり続けること自体への耐性がなくて、投げたらすぐ疲れちゃって、というところはありました」と中田コーチ。投げる体力は徐々に付いてきているが、実戦でイニングをまたぐと、やはり体力のなさが出てしまう。

「今は怪我させないことが1番なんですけど……。本人にも『ちょっとずつでも球数も含め、投げる間隔も狭めていかないと、先々、3軍、2軍に行った時についていけなくなるよ』と伝えました。彼だけではないんですけど、もっと自分で意識的に、練習でも球数のボリュームを出していけるように、レベルアップを考えてピッチングしていこうって話をしました」

 一方、育成ドラフト1巡目ルーキーの赤羽蓮投手は、新人ながらここまで8試合に登板し、防御率0.00と無失点投球を続けている。中田コーチは実戦向きの投手であることを評価しつつ「下半身のウエートトレーニングとか、ランニング系のメニューが多かった次の日、投球の状態が悪すぎる。そういう波をなくしていかなくちゃいけない」と課題を挙げる。今は登板前の練習メニューを少し抑えているが、「ゲーム前でもしっかり練習させていける状態になれば、もっともっと身体は強くなっていく」と次の段階を見据えている。

 キャンプでは、練習について来られるかどうかというところから始まった。そこから徐々に体力がつき、実戦デビューを経て、イニングを伸ばしたり、登板間隔を短くしたりとステップアップしていく。

「4軍から3軍、2軍、1軍と上がっていくにつれて、短い登板間隔で試合に投げていかなくちゃいけない。体力も必要ですし、いまはまだ1回試合で投げたら、例えば短いイニングであっても身体の張りが強かったりして、次の日のキャッチボールで“ピヨピヨ”投げていたりとか、なかなか強度を上げられないところがある。本人たちが怪我しないようにというのは1番に考えつつですけど、なおかつ強くしていかなくちゃいけない。そこのバランスを取りながら、いろいろ話をして『もうちょっとここ頑張ろうよ』とか『今日ちょっと張りすぎているから、キャッチボール軽めに行こうか』とか、個人個人で対応していけるようにしています」

 現役時代は、タフさが売りだった中田コーチだからこそ、様々な経験をもとに選手達にアプローチしている。

 4軍から3軍に“昇格”するには何が求められるのか。3軍と4軍の間にはきちんとした線引きがある。長いイニングを投げられる先発投手は人数が不足しているため、3軍から4軍に投げに来ることもあるが、リリーフは基本的に3軍と4軍でしっかり分けられている。

「3軍と4軍の違いについてもはっきり話しています。例えば、キャッチボールで必ず暴投を投げたりしている段階では3軍には上げられないよ、と。練習開始時間に若干遅れて来るとか、朝ごはんを全然食べていないとか、生活面とチームのルールを守れない選手は3軍には上がれないと伝えています」

 選手としての能力、姿勢はもちろんのこと、社会人としての基本を身につけるのも必須条件なのだ。そんな中で、ドラフト4位の大野稼頭央投手は先日4軍から3軍戦に登板。中田コーチによればまだ正式な昇格ではないが、4軍で与えられた課題を1つずつ乗り越えてきた証としての3軍戦参加だった。

 課題をクリアすれば、次のステージに進める、と選手に示すのも大切なこと。「どうやったら3軍に上がれるのだろうと思いながら、ふわふわ過ごしていくのは違うと思う。こういう条件が満たされたら、どんどん推薦していくよ、と本人たちには伝えています」。プロの世界でスタートを切ったばかりの若鷹たちに、モチベーションを持たせながら、愛情と厳しさを持って接している。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)