「刺せる自信があった」甲斐拓也が明かす“一塁牽制キャノン”に至るまでの道筋

ソフトバンク・甲斐拓也【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・甲斐拓也【写真:荒川祐史】

刺す確率を高めるためにあえて要求した“インコースへのストレート”

「あのプレーは今日の試合の中で一番大きかったんじゃないかな、と。ずっとキャンプから練習してきてることを、あの場面でできたっていうのはすごく大きいですよね」

 11日に本拠地・PayPayドームで行われた日本ハム戦に6-3で快勝した試合後、ソフトバンクの藤本博史監督はこう称えた。勝利への流れを大きく手繰り寄せる1つのプレーとなったのは、甲斐拓也捕手が“甲斐キャノン”で走者を刺した一塁へのピックオフプレーだった。

 1点をリードして迎えた5回。先発の藤井皓哉投手は先頭の水野を四球で出塁させた。続く矢澤への6球目。インコースへのストレートをキャッチした甲斐は素早く一塁へ牽制球を送った。離塁が大きくなっていた水野は戻り切れずにタッチアウト。一塁への“甲斐キャノン”発動に、スタンドは大きく沸いた。

 2死となってから藤井は2番の福田に右翼への二塁打を浴びた。一塁に走者が残っていたままであれば、同点に追いつかれていた可能性もあるだけに、藤本監督も「あの後にヒットが出てるんでね」と目を細めるばかり。甲斐自身も「狙っていました」と語る、ピンチの芽を摘む大きなファインプレーだった。

 調子が悪いながらも粘っていた先発の藤井を救う一塁へのピックオフプレー。実はこのボールよりも前の段階から甲斐の頭の中で走者を刺すまでの道筋が描かれていた。試合後、甲斐自身が明かしてくれた。

「初球に(ランナーが)偽走して、結構リードがあったんです。次あの動きをやったら投げてやろうと思っていました。ただ、そのあとは動きがなかなかなかった」

 矢澤への初球、ファウルとなった148キロで走者の水野がスタートを切る動きを見せたのを、甲斐はマスク越しの視界に捉えていた。次、いつ仕掛けてきてもいいように備えたが、2球目、3球目、4球目と走者に動きはなかった。ただ、視野の中で捕捉していた走者を見て、甲斐の中で“ある確信”が生まれた。

「偽走はしていなくても、これだけの(離塁の)幅があったら刺せる」

 1ボール2ストライクから2球、ファウルが続いて迎えた6球目。「完全に刺しにいきました。自信がありました」。甲斐が要求したのはインコースへの真っ直ぐ。この要求したボールにも意図が込められていた。

「外に外して投げるよりも、内で左バッターの後ろから投げた方が高い確率で刺せるなと思った」

 一塁から距離がわずかに離れ、動きが走者から見えやすいアウトコースではなく、一塁に近く、かつ打者の影になって走者から動きの見えにくいインコースの方が、より刺せる確率は高くなると踏んだ。左打者との距離が近くなるインコースは、その分スローイングはしにくくなるが、努力で培ってきた技術がある。矢のような送球で、狙い通りに刺してみせた。

 投手から投じられる150キロ超、時に160キロ前後のボールを受ける捕手。ボールを捕りながらも、その視界では走者の動きも確認している。「偽走したなとか、捕った時にパッと見えるんで。体重がどっちに乗っているかとかも含めて見えています」。たとえ、投手の方に顔も目も向けていたとしても、視界の中で走者の動きをつぶさに観察している。

 年に何度あるか分からないほどの一塁へのピックオフプレーではあるが、甲斐は「何度も出るプレーではないですけど、できるならしようと思っていますし、そのために毎日、的山コーチと練習をやっているんで体がついてきたのもあります」と語る。いつ起こるか分からないプレーに対しても、万全の準備をしていく。プロの“凄み”が凝縮されたプレーでもある。

 今季から1軍に配置転換となった的山哲也バッテリーコーチのもとで、これまで無かった早出練習でのキャッチャー練習が行われるようになった。「(捕手は)ミーティングもありますし、時間がないんで、そういった時間の使い方をしています」。早出特打が行われている横で、捕手陣がブロッキングやスローイングの練習に汗を流す光景が見られるようになった。

 甲斐にとって的山コーチは1軍デビューを飾った2014年、2軍で指導を受けた指導者でもある。「その1年というのは僕のプロ野球生活の中でも大きかった1年だと思う。(今年は)イチから自分を鍛えたいと思っていましたし、去年のオフの段階から(的山さんを)信じてついていこうと思ってやっています」。昨季の悔しさを胸に迎える今季。初心に帰る意味でも的山コーチの存在は大きかった。

 この日は1点ビハインドの3回に今季初アーチとなる同点ソロを放ち、約1か月ぶりのマルチ安打も記録した。打率1割台と低迷する打撃に「チームに迷惑かけているのは間違いない」と悔しさが滲む。当然、打てば申し分はない。ただ、この日見せたような隙なきディフェンスの貢献度は計り知れない。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)