【連載・板東湧梧】3月の胸中は「不安がいっぱい」 自分を変えた“ある先生”との再会とは…

ソフトバンク・板東湧梧【写真:竹村岳】
ソフトバンク・板東湧梧【写真:竹村岳】

開幕して7試合に登板して防御率3.86…ローテ入り「諦めたわけじゃない」

 鷹フルでは2023年シーズン、4人の選手に毎月インタビューを行い、月イチ連載としてホークスの1年の戦いを追いかけていく。甲斐拓也捕手、周東佑京内野手、栗原陵矢外野手に続き、4人目は板東湧梧投手。前編は、3月に開幕ローテーション入りを争っていた時の胸中について。強い気持ちで乗り越えたのではなく、ある種の「開き直り」が、板東の心を前に向かわせていた。なお、全3回の板東投手の連載「中編」は4月27日の昼頃に掲載予定。

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 強すぎた執着を捨てたことが、今の板東の力となっている。昨季の終盤から先発ローテーションに入ったことで、オフから2023年の「開幕ローテ入り」「シーズン15勝」を何度もメディアの前で公言してきた。もちろん、それを叶えるための取り組みも重ねてきたが、競争には相手がいる。2月の春季キャンプ中、腰の張りもあり調整に苦労したことで、開幕ローテには結果的に高橋礼投手が選ばれた。

 板東が昨オフから取り組んだのは、肉体改造だった。しかし、キャンプ中に思うような結果がついてこず、腰に張りの症状が出たのは、増量と無関係ではないだろう。自分が進化するための鍵だと信じた肉体改造が、なかなか思うような結果につながらなかったことに葛藤はなかったのか。

「わかりやすい変化を求めてしまったんです。何か変わらないと不安な自分もいましたから。見た目の変化は正直、どうでもよくて。結局プレーの面で未熟だった。メンタルも技術だと思うんですけど、そういうところがおろそかになっていたというか。目に見えるところに走ってしまった結果だったと思います。それが悪かったとかはないですけど、プラスしてもっと深いところができていればなっていう。それにようやく気がつけました」

 板東は中継ぎとして今もブルペンを支えている。1つの目標は達成できなかったが「もっと深いところ」に気づいたことで、投球内容は確実に上向いていた。3月22日のウエスタン・リーグの阪神戦(鳴尾浜)では7回1安打無失点。「オフから開幕1軍を思いすぎるというか、意識しすぎていた。悩んだりもして、そこがダメすぎて1回リセットした」と経緯を語る。執着を捨てたことが、板東に前を向かせた。

 裏にあったのは「メディテーション」の存在だ。日本語訳すると「瞑想」を意味し、昨シーズン中も活用してきた。心を落ち着かせて、自分のパフォーマンスを最大限に発揮するためのセッションだ。オープン戦中だった3月上旬にセッションを受け「当たり前なんですけど、それ(開幕1軍)が全てじゃない。自分でも、視野が狭くなっていた。気づかないうちに偏った考えになっていた」と気付かされた。

 昨年6月に2軍降格した時から、メディテーションとの付き合いが始まった。「その先生との出会いで自分も変われた」。とにかく前向きな言葉をかけられることで、ポジティブなマインドとなる取り組みだ。セッションを受けたのは昨季の10月以来で「去年もやっていたので、自分でもできていると思っていたんですけど、全然でした」と改めてお願いすることになった。開幕ローテを争う板東の心境は、今だからこうして振り返れる。

「調子が悪かったので、どうしても不安が勝っていたんです。『開幕に入れなかったら、そこからまた1軍に上がれるのか……』って。不安がいっぱいあった。どうしても開幕(ローテーション入り)を取りたかったし、取らないとダメだと思っていたんです。でもそこだけじゃないというか。1日1日自分が成長することだと思い始めて、毎日やるべきことが見えてきたんです」

 開幕から1軍7試合に登板し、防御率3.86とブルペンを支えている。開幕ローテーション争いに敗れたことも「もちろん悔しい」としながらも「ローテーションを諦めたわけじゃない」と、いつか返り咲くことを目指している。今はただ、目の前の投球に集中するだけ。心身の進化を止めようとしない板東なら、必ず投手陣の太い柱になれる。

「自分で自分を苦しめることは、人生では多々あるので。それの繰り返しだと思うんですけど、それを乗り越えられた感じはします」

 自分にとって辛いこともしっかりと受け入れる。成熟したメンタルでマウンドに立つ板東の立ち振る舞いから、目をそらさないでほしい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)