猪本BCが甲斐拓也から託される独自の“仕事” 「日本一」のミット完成は「1年かかる」

ソフトバンク・猪本健太郎ブルペンキャッチャー【写真:竹村岳】
ソフトバンク・猪本健太郎ブルペンキャッチャー【写真:竹村岳】

取材時に甲斐が通りがかり…「開幕で使うつもりやったのに!」

 猪本健太郎ブルペンキャッチャー(以下、BC)にとって、甲斐拓也捕手は特別な存在だ。2歳年下ではあるが、2013年11月21日、2人は同日に育成から支配下登録された。「一緒に(支配下に)なれたのは嬉しかった。今では日本一の捕手ですからね。僕もそう思っていますし、日本一の捕手を、日本一のサポートをするのが今の目標です」と裏方さんとしての思いを語る。

 まだ雁の巣にファーム施設があった時、猪本BCは自分の車に甲斐を乗せて向かっていた。2桁の背番号をともに目指し、汗を流してきた。当時には「僕らバテバテだったんでね、練習もきつかったですし」と回想する。2人とも捕手だから、練習のスケジュールもほぼ同じ。球場入りする前から、猪本BCと甲斐だけの時間がそこにはあった。

 猪本BCの仕事は主にバッテリーのサポートだが、甲斐から独自に“仕事”を請け負っている。甲斐の新しいキャッチャーミットを試合で使えるような状態にすることだ。今なら青色のミットを甲斐から預かっており「一番近くにいてこういうこともやってあげられる」という。おろしたてのミットはガチガチで、とても試合で使えるものではない。しかし、シーズン中であれば甲斐自身がミットを使えるようにするだけの時間がないため、猪本BCの力を借りているわけだ。

 グラブもミットも、使う選手によって千差万別のものになる。自分自身の“魂”とも言えるミットを預けていることからも、甲斐がいかに猪本BCを信頼しているのかが伝わってくる。「いかにタクの感覚に合わせて、作ってあげられるか。メーカーの方とも話しながら」と明かす。甲斐から預かった気持ちに、猪本BCなりの気持ちを乗せて、グラウンドで共に戦っている。

 甲斐のミットの特徴は「めちゃくちゃ難しいです。浅い作りなので、普通では使えない。技術が高いからこそ使えるんだろうなっていうミットですね」と言う。試合で使えるようになるまで「1年くらいかかりますね。特にキャッチャーミットは」と明かした。6年連続でゴールデングラブ賞に輝いているが、そこには猪本BCの協力もあった。

 猪本BCの取材時に、たまたま甲斐が隣を通った。青いミットを左手にはめて確認すると「開幕で使うつもりやったのに!」と厳しい“ダメ出し”だ。「これまだおろして2週間とかですから、無茶苦茶ですよね」と笑う。それでも、甲斐の向上心は誰よりも理解しており「タク自身もまだまだと思っている選手。今年はこういうのでいこうと思うって会話もして。これもちょっと大きくなっているんです。前回と全然違う形」と続けた。

 甲斐の人柄に猪本BCは「僕がいうのもおかしいですけど、とてもできた子。人を大事にできる」と表現する。育成ドラフトの入団から、日の丸を背負うまで成長していく姿を隣で見守ってきた。「自分でつかんだものなのに、周りのおかげですと発言できる子なので。もっと応援したくなります」と初心を忘れないのも甲斐らしさ。だから裏方さんとしても支えたくなる。

「特別ですね、若い時から。一緒に通勤したりして。あの子の技術を見た時に『まじで何年もできると思うから、本当に頑張ってくれ』って言っていました。ライバルではありましたけど、入ってきた時から違っていたので。頑張れ、頑張れっていうのは言っていました」

 今は支え、背中を押す側になった。日本一のキャッチャーを支える、日本一の裏方さんを猪本BCは目指している。

(竹村岳 / Gaku Takemura)