投手の状態は「僕らが1番分かる」 ミット越しに感じ取るブルペンキャッチャーの仕事

ソフトバンクの猪本健太郎ブルペンキャッチャー【写真:竹村岳】
ソフトバンクの猪本健太郎ブルペンキャッチャー【写真:竹村岳】

裏方さん連載…猪本健太郎ブルペンキャッチャーが語る試合中のリリーフ陣の空気

 チームの勝利を願う裏方さんはブルペンにもいる。ソフトバンクの猪本健太郎ブルペンキャッチャー(以下、BC)はミットを手に日々、バッテリーを支えている。「選手が一番大変なので。僕もその経験がありますけど、いかにやりやすい環境で練習をさせてあげられるか」と、思いやりを持って日々を過ごしている。

 猪本BCは熊本出身で2008年の育成ドラフト4巡目でホークスに入団した。高校通算31本塁打の強打が持ち味で、2013年終了後に支配下契約に。翌2014年にはウエスタン・リーグで17本塁打を放ち、本塁打王となった。2016年でホークスを戦力外となり、ロッテへ移籍。2017年にロッテから戦力外通告を受け、ホークスからスタッフとしてのオファーを電話でもらった。「お願いします」と返事をし、第2の人生が始まった。

 ブルペンキャッチャーの仕事は主にバッテリーのサポートだ。シーズン中ならアーリーワークに合わせて球場入り。試合前には投手とキャッチボールをしたり、捕手の練習を手伝ったりする。先発投手のブルペンでの投球を受けるなど試合前の練習を終えると、試合中はブルペンに付きっきりになる。2番手以降として準備する投手の球を受け続け、リリーフがブルペンから飛び出していく緊張の瞬間を見守っている。

「中継ぎの子は特に、直前まで僕らが捕っていてマウンドにいく。試合に出る寸前まで関われているので、そこはやりがいですね。いかにサポートして、やりやすい環境で練習させてあげるかに重きを置いています。何が大変かと言われたら、相手を思うことですかね。こうやって練習したいのかなとか、こう構えてあげた方がいいのかなとか。そこは大変です」

 試合中のブルペンはリリーフ陣の“聖域”だ。テレビカメラがつくこともあるが、試合中はチームに関わる人間しか入ることは許されない。見ている側として気になる雰囲気を「ピリつく時はピリつきますよ。先発がいい投球をしていたらみんな野球の雑談したりしています」と代弁する。慌ただしくなるのが、投手が緊急降板した時。「若い子がアワアワと準備を始めます」という。

 今年の11月で34歳となる嘉弥真新也投手は、リーダーとなってブルペンを支えている。猪本BCとは「個人的にも仲がいい」といい「面白いですよ。人付き合いが上手です。他球団にも仲がいい人が多いんですよ」と人柄を明かす。スタッフにとっても貴重な選手なようで「僕らも盛り上げてくれる。みんなの1球1球を知ってくれているので、いないといけない存在です」と笑顔で話す。

 毎日、何百球とボールを受けていると、微妙な変化に気づくようになる。中継ぎ投手の球を受けていても、シュート回転や変化球の曲がりの早さなど「僕らが一番わかると思います」。コンディション面の変化に対しても「ちょっと疲れてるのかな……とか、中継ぎの子だったら真っ直ぐの勢いが落ちたりします」と鋭敏に感じ取る。真っ直ぐの勢いとは抽象的かもしれないが、「ミット1つ、素手で捕っているようなものなので分かるものですよ」と胸を張った。

 特に猪本BCが心掛けているのが、投手と真っ直ぐに向き合うことだ。「いかに、いい球はいいって伝える、悪い球は悪いって伝えるか。悪いものをこっちがフレーミングでいいって伝えても、それは良くない」。投手の気持ちを乗せることも大切だが、それだけでは信頼は勝ち取れないと強調する。調子が良くなくとも「その中でどうやって抑えられるのか意識もしてほしい」。本音で話すのが猪本BCなりの“美学”だ。

 バッテリーが活躍すれば、自分のことのように喜べる。それがブルペンキャッチャーにとってのやりがいだ。次回は猪本BCにとって、2013年11月に同時に支配下登録された甲斐拓也捕手の存在を語ってもらう。

(竹村岳 / Gaku Takemura)