「迷った」ブルペンへの電話 指導者となった鷹・斉藤和巳コーチの開幕戦「楽しみはない」

ソフトバンク・斉藤和巳投手コーチ【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・斉藤和巳投手コーチ【写真:藤浦一都】

現役時代は4度の開幕投手「誰かがいくのは想像していなかった」

 指導者となって初めての開幕戦を迎えた。3月31日。ソフトバンクは本拠地PayPayドームでロッテとの開幕戦に4-0と勝利した。先発の大関友久投手が7回無失点と好投し、1勝目を挙げた。ベンチで見守っていた斉藤和巳投手コーチも「オープン戦とは全く違うからね。大変やった。雰囲気は接戦やったから、ピリピリしていたけど」と喜んだ。

 大関は5回まで走者を許さない完璧な立ち上がりを見せた。6回に初安打を許したが、その裏に栗原陵矢外野手が先制の1号3ラン。援護をもらった直後の7回に無死一、二塁のピンチを迎えた。指導者となって初めての公式戦となった斉藤和コーチはここでマウンドに足を運んだ。

「耐え時や。なんとか耐えろ」

 伝えた言葉はいたってシンプルだった。何度もブルペンへの電話を取ろうかと迷ったが、堪えた。「どうしようかなって。グッと電話するのをやめた。迷ったけどね」。結果的に大関がゼロでしのぎ、我慢が実を結んだ。ベンチで笑みもこぼれた。

 投手の交代は斉藤和コーチの判断はもちろん、ブルペンを担当する斎藤学投手コーチとも連携が必要。そして、最終的な決断は藤本博史監督が下す。初めての公式戦を終えて「そこは難しかった。準備させるのが仕事やけど、言われてばっかり代えていてもね。監督は勝つためにやるし、周りにも色々聞きながらです」という。永遠のテーマである投手交代は場数を踏んでいくしかない。

 続投させるのか、勇気を持って投手を代えるのか。時にはベンチが腹を括って、気持ちと姿勢でナインに伝えることが大切だ。開幕戦の7回はベンチの意思が感じられるシーンだった。斉藤和コーチも「今日は3点あったからね。2点差、1点差やったら変わっていたし、3点差だったからいけたのは間違いなくあった。投手のつぎ込み方は難しくなってくる」と、毎日が学びの日々だ。

 現役時代は4度の開幕投手を経験した斉藤和コーチ。圧倒的な存在感に「開幕を投げることが自分の中で当たり前と思っていた。誰かがいくのは想像していなかったですし、自分が先頭にいて当たり前、周りからも当たり前と思われていると思っていた」と振り返る。自分がやらなければ誰がやるんだと、それ相応の覚悟を持って毎日を過ごしてきた。時を経て、今度は指導者として選手をマウンドに送り出す立場となった。

 コーチとして迎えた開幕戦の朝、頭にあったのは長いシーズンに突入する責任感だった。「始まってしまうんやなっていう、長い旅が……。とうとうって感じ。正直、楽しみでもなんでもない。プレッシャーの日々が続くから」。現役時代、エースとしてチームを引っ張った。1勝の重みを誰よりも知っているからこそ、その肩にのしかかってくるプレッシャーを痛いほど感じている。

 シーズンが始まった今、胸にあるのは投手コーチとしての“親心”だ。「1試合が終わって、残り142試合になったね。早めに先発投手は1勝をつけてあげたいのがあります」。ヒーローインタビューに選ばれた大関と栗原だけではない。3月31日。ベンチでは新米コーチも指導者としての開幕戦を戦っていた。

(竹村岳 / Gaku Takemura)