エースの称号に「考えて苦しんだ」 千賀滉大がつかんだメジャー初勝利の大きな意味

MLB初勝利を挙げたメッツ・千賀滉大【写真:ロイター】
MLB初勝利を挙げたメッツ・千賀滉大【写真:ロイター】

NPB時代は通算87勝…2人の監督も千賀を「うちのエース」と呼んだ

 メッツの千賀滉大投手は2日(日本時間3日)、敵地・マーリンズ戦で初登板初先発し、5回1/3を投げ3安打8奪三振3四球1失点でメジャー初勝利を挙げた。「難しかったですけど、本当に試合を壊さないでよかった。ホッとした感じがあります」と振り返る。1回に無死満塁のピンチを招いたが、1失点で切り抜けた。ソフトバンク時代から夢見てきた舞台で、待望の初勝利だ。

 NPBでは通算87勝。2016年からは7年連続2桁勝利を挙げ、2010年育成4位でのプロ入りから球界を代表するエースにまでなった。2016年以降、仕えた指揮官は工藤公康と藤本博史の2人。どちらも千賀を「うちのエース」と表現し、常に大事な試合を任せてきた。エース―。その重い肩書きと、千賀は常に戦ってきた。

「考えて苦しんだこともありましたし、そのワードのおかげで色々、考えることが増えたのは事実ですし、いいも悪いも含めて色々あったのかなと。僕の中ではそういうのがありながら戦っている中で、頑張ろうかと思わされることではありました。呼ばれるから頑張ろうというのもありました」

 エースだと、自称するプロ野球選手はほぼいないだろう。自分が残した成績で、周囲からの評価がエースという称号に変わる。成績はもちろん、マウンドの立ち振る舞いや若手へのお手本となる態度など、エースとしての自覚をハッキリと意識して過ごした時期もあった。「苦しんだこともある」というが、周囲の評価が自分の背筋を伸ばし、成長させてくれたことは確かだ。

2017年から夢見てきたメジャーの舞台…エースから“野球少年”へ

「その言葉ってどこから生まれたんだろうって思います。先発投手も6人いて、その中の良いカードを持っているくらいの感覚かもしれないですけど。でも日本にはそういうワードがあるじゃないですか。そのワードに関しては周りがそういうふうに呼んでくれたらいいだけであって、僕は1ミリも思ったことはないですけど、光栄なことです。自分が言うことじゃないし、こだわりは本当になかったです」

 2017年オフから千賀は球団にポスティングシステムを用いたメジャー挑戦を訴えてきた。長年の夢を、海外FA権を行使することで叶えてみせた。米国では1年目の新人。NPBでの実績もエースの肩書きも全て捨て、自分自身のためだけに一から挑戦している舞台だ。エースから“野球少年”になったことで、まっさらな気持ちで野球を楽しむことができる。

「エースっていうそのワードの中で、これからいろんな人が一喜一憂するワードになっていくんだろうなと思います。僕も光栄なことに、その1人に入れたので」。今だけは何も背負わずに、この白星を喜びたい。夢を叶えた千賀が、心から笑った。

(竹村岳 / Gaku Takemura)