「若手に蓋をする」への球団の考え方は? 三笠GMが語るホークス的“補強と育成の在り方”

ソフトバンク・三笠杉彦取締役GM【写真:福谷佑介】
ソフトバンク・三笠杉彦取締役GM【写真:福谷佑介】

「勝ち切る経験をすることによって、より強い組織になっていく」

 2023年のペナントレースがついに幕を開けた。3年ぶりのリーグ優勝と日本一を目指す我らがホークスは本拠地PayPayドームにロッテを迎えて開幕カードを戦い、見事に3連勝。最高のスタートを切ることに成功した。

 リーグ最終戦で優勝を逃して迎えた昨オフ、ホークスは大型補強を敢行した。FAで近藤健介外野手、嶺井博希捕手をダブル獲り。外国人でも前ロッテのロベルト・オスナ投手をはじめ、前阪神のジョー・ガンケル投手、米独立リーグ2冠王のコートニー・ホーキンス外野手、万能野手のウイリアンス・アストゥディーヨ内野手を補強した。

 開幕の時点で70人が上限の支配下登録枠は67人まで埋まっている。こうした大型補強が行われると決まって言われるのが若手育成とのバランスの取り方だ。補強すると言われるのが「若手の成長に蓋をする」。では、この点について球団フロントはどう考えているのか? 編成面の責任者である三笠杉彦取締役GMが独占インタビューで考え方を明かした。

「当然、補強と育成のバランスであったり『若手が蓋をされる』という声があるのは存じています。確かに若手は競争が増えて大変ですし、たくさん選手がいるのに、1軍の枠は変わらない。そういう意味では競争が激しくなるということはあります」。競争の激化により、これから主力になろうという若手選手たちがなかなか台頭しづらい状況にあることは認める。

 とはいえ、球団として常に目指すべきものは、あくまでリーグ優勝と日本一だ。若手を育てるために、1年や2年、優勝できなくてもいい、なんていう考えは、少なくともホークスにはない。常に勝つことが求められている上に、球団として“勝つこと”がチームを強化する上でも必要だという考えがある。

「我々は様々な経験をする中で“勝ち切る経験をする”ということがとても大事だと思っています。勝てなくてもいい経験はできますが、勝ち切る経験をすることによって、より強い組織になっていくと考えています。そういう意味では『蓋をする』というのは事実ですが、今年勝つ確率は高めるために補強することを選んだということです」

 常に勝つことが求められ、1試合、1試合、そしてシーズンを勝ち切ることをチームの一員として経験することでこそ、若手は大きな経験を積み、より一層の成長につなげることができる。さらに言えば、若手がレギュラーを奪う過程の中でも、競争を“勝ち切ること”が何よりも大事。レギュラーは与えられるものではなく、競争に勝って奪うもの。その競争が激しければ、激しいほど、勝ち抜いた選手は大きく育ち、向こう何年間もチームの屋台骨を支える中心選手になれる。

「別に近藤くんが10人いるわけじゃないですから。そういう中でも勝ち抜く若い選手が出てくると思います。補強した選手と中堅クラス、若手が球団内で競争する。そして、相手との対戦を勝ち抜いて優勝を勝ち取る経験をしてもらうことが、この先10年、20年、強いチームでいるために重要なことだというふうに判断をしたということですね」と三笠GMは言う。

 今季で言えば、正木智也外野手が開幕スタメンを掴んだ一方で、期待されながらオープン戦でアピールできず、ファームで開幕を迎えることになった若手もいた。さらに言えば、ホーキンスやガンケルら外国人、有原航平投手も競争の末に開幕は2軍となった。たとえ蓋をされたとしても、その蓋を打ち破ってこそ一人前。これこそがホークスにとっての“補強と育成のバランス”なのだ。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)