1軍とファームに感じた“意識の差” 笹川吉康が1打席の初昇格で掴んだ貴重な糧

ソフトバンク・笹川吉康【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・笹川吉康【写真:藤浦一都】

「1軍の人は何も言われなくても、そうやって出来る人たちが集まっている」

 ソフトバンクの笹川吉康外野手が、大きな経験を胸に今季の飛躍を誓った。24日に本拠地PayPayドームで行われた広島とのオープン戦で“プロ初出場”。藤本博史監督は「一応、体験みたいな感じ」と説明していたが、7回の守備から途中出場すると、8回には“初打席”も回ってきた。結果は空振り三振だったが、持ち前のフルスイングを披露した。

 2試合のオープン戦参加を経てファームへと戻ってきた笹川は「めちゃくちゃいい経験になりました」と充実の時間を振り返る。初めて味わう1軍の舞台には「緊張しました」という。練習の流れや動きもファームとは異なるため「いろいろ気を張りすぎて、初日は全然野球に集中できなかった」と先輩たちについていくことに、とにかく必死だったというのが本音だ。

 さらに、ドーム独特のボールの見え方の違いにも苦戦した。「初日はバッティング練習でボールが全然前に飛ばなくて、ちょっと焦りました」。キャンプ中のA組昇格は叶わず。ペナントレース開幕直前に与えられた“1軍のチャンス”で「本当はバッティング練習からもっとアピールしたかった」と悔いもある。それでも、唯一の打席で三振とはいえ、持ち前のフルスイングでファンの歓声を誘った。

「(小久保2軍)監督からも『鮮烈デビューして来い』と言われていたので『結果はいいや』って思って、フルスイング出来ました。最初の掴みはオッケーですかね?」。いたずらっぽい笑みを浮かべた笹川。今回は体験だったため、次こそ“実力”で1軍に呼ばれるように、と意気込んでファームに戻ってきた。

 1軍で痛感したのは、野球に取り組む姿勢だった。「まずアップから違いました。1軍は全体アップがなくても、自分の必要なことをそれぞれやって、試合に向けてしっかり準備していました。練習は14時20分からなのに、11時半とかからみんな来ていて、やることをやっていました。やっぱり1軍の人は何も言われなくても、そうやって出来る人たちが集まっているんだなと思いました」。1軍の舞台で活躍するために必要なことを肌で感じた。

 小久保裕紀2軍監督との間で、今季のファームでの目標は「3割」と掲げている。「3割を意識するようになって、2ストライクからは三振しないようにとか、打率を残すには四球を取るのが大事とか。率が高い人は四球を取っているというデータも出ているので。カウント3-2からは我慢することも考えています」。とにかく長打に気持ちが向いていた昨季までとは意識も変わっている。

 小久保2軍監督も変化に目を細める1人だ。春季キャンプから“人間的な成長”を認めていたが、笹川のある気付きに成長を感じた。「我々サイドで手をつけようかという話をしていたところだったんです、技術的なところで。それが、本人から『こうします』と言ってきたのが一致したので。多分良くなると思います」と話す。そのポイントとは“後ろの手”、左打ちの笹川にとっての左手の使い方だった。

「(左腕が)ちょっと下がりすぎていたので。フライボール革命やけど、みんな間違って最初から下げるんです。インパクトで下げるだけなので。みんなインパクトの角度をそのままここ(構えの位置)に持ってくるので、当たらないですよね。それを本人が自分から言ってきたので。ここをこう直しますと。かなり意識してやっています」

 小久保2軍監督も「やっぱり自分で気づいて、変えるのが一番」と頷く。チーム1のヘッドスピードを持っていながら、打球速度が比例していなかったのは、やはりミート率の悪さが原因。そのためにどうすべきかというメカニックの部分を自ら気づくことが出来たのは大きな成長だった。

「柳田と後ろの腕の使い方が明らかに違ったことが、自主トレを一緒にしていて何を今頃気づいてんねんって感じはするんですけど(笑)」と言う指揮官だが、「こっちが言う前に気づいてきたことが一番。本人の成長のためにはそれが一番早いですよね。納得した上で自分で取り組むので」と笑う。3年目のこの時期に出来た大きな経験を、今季の飛躍に繋げてくれるはずだ。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)