“選手あがり”だからこそ伝えたい選手のウラ側 西田哲朗広報が抱く元プロの自覚と野望

ソフトバンク・西田哲朗広報【写真:竹村岳】
ソフトバンク・西田哲朗広報【写真:竹村岳】

プロ野球界の課題でもあるセカンドキャリア

 プロ野球選手は、ファンの存在で成り立っている。と同時に、一度その世界に入ってしまうと、もう名前を消すことはできない。毎日、チームと行動を共にし、見守る中でソフトバンクの西田哲朗広報には抱いている思いがある。

「もともと選手だった自分がどこまでできるのか。選手にはこんなところがあるというのを伝えていきたいです。“選手あがり”の人をひと括りにしたら、その“選手あがり”の1人として、野球界の発展とかを意識してやっているところはあります」

 プロ野球は、当然だが、野球で飯を食う世界だ。西田広報自身は“選手あがり”だからこそ、世間のイメージと実際の選手の在り方にはギャップを感じている。プロ野球の世界でユニホームを着たからこそ言える、西田広報ならではの考えだ。自身なりの意見を語った。

「プロ野球選手をやったことがある人は世の中に少ないじゃないですか。だから“野球しかやってこなかった”と思われがちなんです。でも、出会う人の数も多ければ、企業の社長さんクラスの方とご飯を食べる時もある。そういう経験ってなかなかできることでもない。でも、悪く言えば、野球選手は遊んでいるって思われているとも思います」

 野球選手は名前はもちろん、出身地や生年月日、細かなプロフィールまでもが世に出回っていく。グラウンドでの結果が全ての世界ではあるが、その過程が評価されることはない。当然、悪い意味で世間に影響を与えるようなことをしてしまえば、一瞬でその名前が出回ってしまう。西田広報も「注目を浴びるところにいるから、ちょっと遊んでいればそれが目立ってしまう。世の中のイメージと、中でやっていることのギャップはあると思います」と語る。

 プロ野球選手にとってセカンドキャリアは永遠の課題だ。ユニホームを脱ぎ、どんな仕事、どんな人生を送っていても「元プロ野球選手」の肩書きが取れることは絶対にない。たとえ、野球界から離れたとしても、その“宿命”と自覚を一生涯、背負って生きなければならない。それがプロ野球選手だ。

「『元プロ野球選手』のあの人が今こういうことをしている、といい意味でなれば、今のプロ野球選手が現役を終えた後を考えても、プラスになると思うんです。だから球団の1人としての自覚に、元プロ野球選手としての自覚も必要なんですよ。この世界に一度入ってしまえば。『元』っていう肩書きが取れることは一生ない。それを変えていけるのが、選手から上がって違うことをやっている人たちだと思います」

 だからこそ、西田広報が思うのは選手の努力を伝えたいということ。午前10時から全体練習が始まるなら、ある選手は起床してまず風呂に入って体を温め、朝食を取ってストレッチをしてアーリーワークに参加する。もっと言えば、前夜の寝る前から準備は始まっている。文字通り24時間を野球に費やす“戦い”なのだ。

 ただ、その全てが世間に届くことはない。結果が全ての世界であることは間違いないが、西田広報は“選手あがり”だからこそ、その過程も見てもらい、時には評価されてもいいのでは、と思う。

「野球選手が午前9時からグラウンドに出てきたら、そこからの部分しか見えない。でも、そうじゃないじゃないですか。終わってからも、始まる前も『こういうことをやっています』っていうのを見てもらいたいです。結果が全ての世界でそれは仕方ないですけど、そこで結果を出すために何をしているのか。過程も見て、選手のすごさをわかってもらうのも一つかなと。それも“選手あがり”だからこそ知ってもらいたいです」

 今は広報として、選手の努力も素顔も、多くの人に届けていくことが仕事となった。「広報として優勝の仕事がしたいですね」。西田哲朗の生き方には、プロ野球の世界に飛び込んだ人間としての自覚と責任がにじみ出ている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)