「自分を奮い立たせて」4軍戦にも出場…海野隆司がファームで抱いていた思い

ソフトバンク・海野隆司【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・海野隆司【写真:藤浦一都】

渡邉陸に代わって16日から1軍に合流した海野

 ソフトバンクの海野隆司捕手が16日、巨人とオープン戦を行う1軍に合流した。昨季は主に“2番手捕手”として自己最多の47試合に出場。オフには師事していた正捕手の甲斐拓也捕手との自主トレからも独立し、単身で決意の自主トレを行った。ところが、キャンプはB組スタート。キャンプ中のA組昇格もなく、これまでずっとファームで過ごしてきた。

 今月7日、1軍のオープン戦がPayPayドームで行われる中、海野の姿は北九州市の九州共立大グラウンドにあった。タマスタ筑後で行われた2軍戦でもなく、この日初めて行われた4軍戦に出場。2軍戦には1軍から参加の渡邉陸捕手が出場した。渡邉陸の出場機会を作るためではあったとはいえ、海野の4軍戦出場には衝撃もあった。そんな中でも、黙々と目の前の試合で自分のやるべきことを徹底して行っていた。

 ライバルの多いチーム状況は重々理解している。その中で、海野は「とにかく自分自身を奮い立たせてやるしかないです。誰がどうとかそんなことは考えない。とにかく自分が結果を出すこと。あとは変なミスとか、怪我をしないように」と語る。さらに語気を強め「アピールとかじゃないです。凡ミスとか、1軍では絶対にしちゃいけないミスを2軍でも絶対しない。ミスだけはしない」と言い切った。

 脳裏に浮かぶのは、あの試合だ。昨年10月1日の西武戦。優勝へのマジックを「1」とし、引き分け以上で優勝が決まる一戦だった。海野は8回からマスクを被っていたが、同点で迎えた延長11回、山川穂高内野手にサヨナラ本塁打を浴びた。バッテリーを組んでいた藤井皓哉投手と共に人目もはばからず涙を流した。

 この経験は海野に深く刻まれている。「去年1軍で、優勝がかかる試合とかプレッシャーのかかる場面で出させてもらって、ああいう場でミスしてはいけない、1つのミスが点に繋がると知りました。今年はああいうところで出たいのでここでミスしていたらダメ。すぐ行ける状態にしておく。今年、心掛けているのはそれだけです」と海野は言う。捕手というチームの勝敗に直結する責任あるポジションで、確実な仕事をすることこそが最も大切なことだと身を持って知った。だから、アピールすることに前のめりになるというよりは、捕手としての確実な仕事にとにかく徹した。

「人の結果とか気にしていたら、訳わかんなくなっちゃうので、自分は自分」とも語り、とにかく捕手として信頼を得るために日々、自分と向き合ってきた。そして、ようやく1軍からのお呼びがかかった。この短期間に4軍から1軍へ。「得たものは……初心ですかね。そういう気持ちにはなりましたね」。アマチュアと対戦する4軍はグラウンドや道具など環境も決して良いとは言えない。プロの1軍を知っているからなおさら、初心を思い出し、自分のやるべきことと向き合えた。ここからの逆襲へ。海野が1軍争いへと殴り込みをかける。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)