全て“お蔵入り”となった優勝取材…西田哲朗広報が明かす2022年優勝争いの舞台裏

ソフトバンク・西田哲朗広報【写真:竹村岳】
ソフトバンク・西田哲朗広報【写真:竹村岳】

優勝準備に追われた最終盤の1週間は「毎日寝られない日々でした」

 ソフトバンクは3月に入り、オープン戦でシーズンへの準備を重ねている。選手は事あるごとに「去年の悔しさをぶつけたい」と口にするが、裏方さんたちも昨季、同じように苦い思いを味わった。チームを見守ってきた西田哲朗広報は「今年は優勝して、広報としての仕事をしたいです」と、スタッフも優勝を目指して日々を過ごしている。

 2022年、チームは76勝65敗2分けで惜しくも優勝を逃した。選手たちはもちろんだが、チームにとっての最高の瞬間を世間に届けることができなかったことは西田広報にとっても悔しかった。ぶっちぎりの優勝ならともかく、ギリギリの戦いの中で「これだけゲーム差がないと、選手は本当に優勝に向けて話すわけなので…。選手も優勝の現実味が帯びてこないと話すことも話せない」。優勝用の取材を選手に受けてもらうタイミングは非常に難しいものだった。

 リーグ優勝やオールスターといった節目、節目のタイミングでは事前にテレビや新聞、各メディアは企画を準備し始める。あらゆる媒体とのやり取りで「毎日寝られない日々でした。試合が終わってもその作業ばかりで」。ナイターの後に睡眠時間を削って、準備と作業に向き合えたのは、自分自身のプロとしての自覚と、優勝という最高の瞬間をファンに届けたかったからだ。

 日程面でも徹底的な準備を強いられた。昨季、本拠地PayPayドームでの全試合が終了した時点で残りはビジターで5試合。その時点で優勝へのマジックは「4」で西武戦、楽天戦2試合、西武戦、ロッテ戦という日程だった。開催地が違えば当然、ホークスの宿舎も違う。優勝後の会見場の確保、ビールかけの準備、インタビューのスケジュールなど、ありとあらゆるパターンに備える必要があった。

「毎日ホテルも違っていたので、この場合は何時から何時までやって、インタビューをこの選手にして、写真の配列はこうして……。優勝が決まった瞬間にどうアテンドしていくのか。何回も何回も考えました。ましてや各社、違うものを出すので(取材依頼を受けて)選手1人1人に聞いていかないといけなかった。優勝が近づいて、1週間とかでバっとやりました」

 自身の手帳に、全パターンを想定して書き込んだ。優勝した夜、取材を全て終えれば「(午前)5時、6時」となるはずだったという。プロとして完璧に仕事をこなして、最高の喜びに浸って眠りにつけると信じていた。しかし、結果は惜しくも2位。昨季最終戦だった10月2日のロッテ戦(ZOZOマリン)で敗れて、準備した企画は全て“お蔵入り”となってしまった。

 忘れられない光景がある。10月2日の試合後、千葉・幕張のホテルで祝勝会用に準備されていたビールが少しずつ片付けられていた光景だ。西田広報も「あの時が一番悲しかったです。これだけ完璧に段取りしたのに……って。選手ももちろんですけど、僕も悔しかったです」。選手の頑張りもスタッフの準備も、なかったものにはならない。分かってはいても、結果で報われなかったことはぶつけようのない思いとなった。

 激動の優勝取材を経験して学んだことは準備の大切さ。事前の取材の手配、スケジュールの管理などを経て「段取りだけで8割……もう10割くらいですね。当日にやるんじゃなくて、本当に段取りが大事です。今年は優勝してその仕事がしたいですね」。準備が大切なのは選手だけではない。社会人として働く以上、どんな世界にも共通して言えることだ。西田広報も3年目を迎えた。昨季に味わった一生忘れられない悔しさと、多忙な日々は自分を何倍も成長させてくれた。

(竹村岳 / Gaku Takemura)