騙し合いから再びガチ勝負に…強者揃いのパで起きた“時代の逆行” 長谷川コーチの打開策

ソフトバンク・長谷川勇也打撃コーチ【写真:竹村岳】
ソフトバンク・長谷川勇也打撃コーチ【写真:竹村岳】

鷹フル単独インタビュー最終回「打率の10傑に何人も」

 長谷川勇也打撃コーチの鷹フル単独インタビュー、最終回は「ホークスの打撃面」について。コーチ2年目を迎えた長谷川コーチの掲げる“夢”にも迫った。

 昨季、リーグ優勝を逃したが、打撃面の成績は秀でていた。チーム打率.255、108本塁打、555得点などリーグトップ。栗原陵矢外野手を欠きながらも、打撃面においては手応えを感じるシーズンだった。野村勇内野手や三森大貴内野手、正木智也外野手ら可能性を感じさせる若鷹の台頭もあった。

 昨季を振り返る中で、長谷川コーチは「集中力」という言葉を強調した。チームの得点圏打率.266を挙げて「甘いボールを仕留めることに関しては集中力を持ってできました。ストライクゾーンを広げすぎることなく、甘いボールを仕留めていたのは、すごく良かったと思う」というのが収穫だった。

 昨季の得点をイニング別に見ると、最多は1回と4回の「86」。最少が9回の「38」、次いで2回の「44」だった。「投手がある程度、状態をつかんできて、一回り、二回りして状態も上がり、甘い球や失投が減ってきた時に、もろさがあったと思います」。先発投手を波に乗らせてしまった時、どうアプローチをかけて崩していくのか。攻撃のバリエーションが今季は求められる。

 近年、球界全体として投手のレベルが急速にアップしている。オリックス・山本由伸投手やロッテ・佐々木朗希投手ら、圧倒的な能力を持った投手が次々と生まれ、打者がそのレベルについていかないといけない時代となった。現役時代にダルビッシュ有投手(現パドレス)、楽天・田中将大投手らと対峙してきた長谷川コーチも「僕もちょうどレベルがグッと上がる時期に選手をしていて、そういう経験をした」という。ただ、だからこそ、打撃において考えることはシンプルでいい。

「それなりに対応も変わってきましたけど、よりシンプルになったかなと思います。昔は配球だったり、騙し合いとか。投手だけじゃなくて捕手とも勝負がありました。狙い球を絞ったりという作業は多かった。投手のレベルが高くなってきている分、対投手と勝負できる環境にはなってきていると思います」

 投手の能力が高く、圧倒的なボールを投げるのなら、投手も自信のあるボールを選択する。バットを「振らせる」ような投球ではなく、ゾーンで勝負してくるからこそ「そういうボールを仕留められるかどうか、シンプルな作業になってきている」と重要な点として挙げた。「騙し合い」という領域から、投手との“ガチンコ”の勝負に勝てるか。打者側も進化を続けなければならない。

 今季は日本ハムから海外FA権で近藤健介外野手が加入した。長谷川コーチは「どこにでもフィットしてくれる」と、柔軟に起用していくつもりだ。前述した昨季の収穫と課題を踏まえ、打撃コーチとして作り上げたい打線は頭の中にある。

「僕の理想としては、打率の10傑に何人も入るようなチームにしたいです。実力もそうですし、誰が見てもすごい打者が並んでいるなという、目に見てわかる打線にしたいです。2014年とか2015年とかは5人くらいは10傑に入っていたので、みんなでタイトル争いができればと思いますね」

 2014年なら5人の3割打者を生み出し、リーグ優勝した。2015年は柳田悠岐外野手がトリプルスリーに輝き、その前後を内川聖一内野手(独立リーグ・大分)、松田宣浩内野手(現・巨人)らが埋めて連覇を成し遂げた。「(野球は)やっぱり投手ですよ」と長谷川コーチもいうが、打線の迫力でファンに夢を見てもらうのが目標だ。近藤をはじめ新戦力と化学反応を起こせれば、バットでパ・リーグを圧倒できる。

 月並みな質問だが、最後に今季の目標を聞いた。現役時代、ユニホームを脱ぐ最後の日まで技術を磨き続けた男。指導者となっても、“技術”に対する姿勢は全く同じだった。「打撃コーチなので。みんなのバッティング技術が上がる。それが必ず優勝に結びつくと思うので。各選手の能力を上げることが優勝への一番の近道」。長谷川勇也は野球を愛し、夢に生きている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)