若鷹に鳴らす“警鐘”とは 長谷川コーチだから言える「人の受け売りは本物の技術にならない」

ソフトバンク・長谷川勇也打撃コーチ【写真:竹村岳】
ソフトバンク・長谷川勇也打撃コーチ【写真:竹村岳】

長谷川打撃コーチが1月に渡米「最新のトレンドですから」

 指導者になっても成長しようとする姿勢は変わらない。それどころか、加速するばかりだ。ソフトバンクの長谷川勇也打撃コーチは1月に渡米していた。「まだ終わっていないので、言えるのは行ったということくらい」と経緯などについて詳細には話さなかったが、指導者として何倍も成長して帰ってきた。鷹フルの単独取材で、現代における指導について熱く語ってくれた。

 動作解析を行うトレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」にも訪れたという。「最新のトレンドですから。選手の受けもいいですし。ちょっと触れてみたいという気持ちもあったのはあったので」と感想を明かす。理解を深め、刺激を受けたことはもちろんだが「かといって、全部が全部、解決できるほどバッティングは簡単ではない」。自分自身が積み重ねた技術に対して、改めて自信を得る機会にもなった。

 情報にあふれている現代である。国内はもちろん、海外の情報だって簡単に手に入れられる時代になった。動作解析や栄養学、心理学に肉体強化など、グラウンドで結果を出すためのヒントはどこにでも転がっている。厳しさが必要であることは変わらないが、もう「根性論」のようなものだけで選手がうなずく時代ではなくなったはずだ。

 コーチが選手に寄り添い、コーチも知識を身につけないといけない。最新のトレンドを学ぼうとするのは、選手の知識に置いていかれないようにするためですか…という問いを、聞き終わる前に「いや、そうじゃない」と言い切った。長谷川コーチだから説得力のある持論だ。

「逆に情報が多すぎるので。それもそうだし、人の受け売りって本当の技術にはならないと思うんですよ。自分で作り上げていくのが技術なんです。それを丸飲みにして、技術がついたと思っていたら多分、ちょっとそこは違うんじゃないかなと感じています。最近を見ていると。人の受け売りを100%実行しているだけだったら、それは違うんじゃないかと思いますね」

 今の時代に“警鐘”を鳴らし「知識=技術」ではないとハッキリ言った。情報が多いだけに取捨選択の必要があるのはもちろん、知識を得ただけで満足しているのではないかと長谷川コーチはいう。「本当に身になっているのかと言われると、そうでない選手も多いのかなと思います。結果を出せていない、結びついていないというところが、まだ自分のものにできていない」。練習の中で、自分自身が「これが必要なんだ」と気づき、信じて練習を重ねることで見つけるのが本物の技術だろう。

 長谷川コーチは現役時代に通算1108安打を放った。練習に練習を重ね、結果はもちろん姿勢でもチームの中で確固たる居場所を築いた。その居場所と、磨き上げた技術は誰にも奪われるものではなく、いつまでも信じ続けられる自分だけの“原点”である。人の言葉に耳を傾けることは重要だが、他の誰よりも自分が自分を信じなければいけないと訴えていた。

 全てにおいて効率化が求められる時代だ。選手が知識をつけたのなら、あとは体と心に刻み込めるまで練習するだけ。時代は変わっても練習の「量」は必要かと思えば、長谷川コーチは指導者としての視点で「人それぞれの考え方があるので。僕の場合は量が必要だったので。それがみんなに当てはまるかというと、そうではない」と柔軟に言う。ただ、いつだって自分だけは疑ってはいけない。

「野球の技術というのは、自分と向き合って、自分の体と向き合って作っていく作業なんです。そこを一番大事にしてほしいですね。自分と向き合うことを」

 長谷川コーチがいうからこそ、重みも説得力もある。支えてくれる人を大切にして、誰よりも自分自身を信じた先にだけ、本物の技術がある。

(竹村岳 / Gaku Takemura)