二刀流改め「投手一本」で再スタート 育成再契約の小林珠維が故郷で下した決心

ソフトバンク・小林珠維【写真:上杉あずさ】
ソフトバンク・小林珠維【写真:上杉あずさ】

実家に送ったバットを一度も握らず「気持ちはそっちにある」

 再スタートとなる2023年を小林珠維投手は清々しい表情で迎えている。今季が入団4年目。昨オフに戦力外通告を受け、今季からは育成選手としてプレーする。しかし、胸の内は希望に満ちている。“投手再転向”という新たな挑戦を前に、充実したオフを過ごしていた。

 東海大札幌高時代は最速152キロの本格派右腕だった小林は、高校日本代表候補にも名前が挙がるほど投手として注目された存在だった。ただ、ソフトバンクからは高い身体能力を評価されて内野手としてドラフト4位で指名され、プロでは遊撃手、二塁手、三塁手などでプレーしてきた。

 だが、入団からの3年間、特に内野の守備には相当苦労した。ポテンシャルを評価されていた打撃面でも、安定した成績を残せず。本格的な野手転向はプロ入り後からだったが、高卒3年目で育成落ちという厳しい現実を突きつけられた。

 ただ、ここから小林の切り替えは早かった。球団から育成契約を打診された段階で「投手再転向」を直訴。昨秋キャンプからは投手の練習にも加わり、3年ぶりの挑戦をはじめた。昨秋キャンプの時点では投手転向を基本線としながら、様々な可能性を考慮して野手の練習も続けてきたが、このオフに地元・北海道に帰省した際に「投手一本」で戦うことを決意した。

 母校で練習していると、恩師やお世話になった関係者から「やっと戻ってきたか」と投手再転向を歓迎されたという。プロに入る前から自分をよく知る人たちの反応に「小さい頃から見ていた人達は、そう思ってくれていたんだなと思って、余計にピッチャーをやりたくなりました」と胸が熱くなった。

 福岡へ戻るための荷造りをしていると、あることに気付いた。筑後から実家に送っていた道具を整理してみると、実家に送ったバットを一度も握らず、封すら開けていなかった。投手の練習に没頭していたのだ。自分でも驚いた。と同時に「やっぱり気持ちはそっちにあるんだ」と自ら投手への思いを確信した。首脳陣との正式な話はこれからになるが、自身の思いは固まった。

 野手として奮闘した3年間に後悔はない。「3年間野手をやって、間違いなく身体は強くなった」。投手一筋だったら経験できなかったような野手の練習やトレーニングで心身共に成長出来た。自身が打者として対戦した相手から“嫌な投手像”を思い描くなど、打者としての経験も生かすつもりだ。

「もっと身体を強くしてコントロールも磨いて、速球と動くボールを使いながら打ち取りたいです。カットボール、ツーシーム、フォークとか、より速く、コントロールよく動かして行ければ。自分、それで打ち取られていたんですよ。自分も嫌だったというこの経験も生かしたい。楽しみですね」と、小林は早くも新たなシーズンに気持ちを昂らせている。

 キャンプは筑後でのC組スタートとなったが、感謝の気持ちを胸に2023年に挑む。「贅沢なことは言いません。4軍でも3軍でもいいから投げたい。たくさん試合を積んで、上がっていけたら。もう落ちるところまで落ちたので」と這い上がっていく覚悟を示す。良い意味で想像しがたい小林の4年目のシーズン。どんな姿を見せてくれるのか期待したい。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)