板東湧梧が犯した「絶対やってはいけない」大失態 初回7失点で学んだメンタルの重要性

ソフトバンク・板東湧梧【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・板東湧梧【写真:荒川祐史】

8月25日の楽天戦、初回7失点の裏で板東には何が起こっていたのか?

 板東湧梧投手は昨季のホークスで大きく成長を遂げた投手の1人だろう。序盤は中継ぎとして1軍で投げるもなかなか調子が上がらなかったが、2軍での先発調整を経て復帰すると、終盤は先発ローテの一角として奮闘。プロ初完投、初完封も飾るなど、8月下旬からだけで3勝をマークした。来季も先発の1人として期待がかかっている。

 そんな板東にとって大きな転機となった試合がある。8月25日、楽天生命パークで行われた楽天戦だ。8月19日の日本ハム戦でプロ初先発初勝利を挙げた板東。プロ2度目となる先発マウンドで「絶対やってはいけないことを想像して、絶対にやってはいけないことをやってしまった」という事態を招いたのだ。

 ちょうどチームは新型コロナウイルスの感染者が続出している苦しい状況にあった。そんな中で初回、野村大、谷川原の連続タイムリー、増田の犠飛でいきなり4点を先制した。ここまで5連勝の勢いそのままに、幸先よく大量リードを奪った。問題だったのは、この裏の楽天の攻撃だった。

 板東は先頭の西川に四球を与えると、小深田に右前安打され、浅村には四球を与えた。いきなり無死満塁とされ、島内、銀次に連続タイムリーを浴びて1死も取れないまま1点差に迫られた。ピンチは続く。鈴木は見逃し三振に仕留めたものの、茂木に四球を与えて再び満塁となると、渡邊佳への押し出し四球で同点。炭谷、西川にも適時打を浴びて大量7点を失ったのだ。

 この時、一体、板東の中で何が起きていたのか。板東はのちにこう明かしてくれた。

「あの試合、調子は良かったんです。その中で立ち上がり、フォアボールから始まったというのもあるんですけど、そこで絶対にやってはいけないことを想像してしまったんです。絶対やってはいけないことを想像して、絶対にやってはいけないことをやってしまった。イメージしてしまったんですよね、悪いことを。で、それはやっちゃいけないという守りの気持ちに入ってしまった結果、もう全然、自分の気持ちが攻められなくなった」

 チームは5連勝と勢いに乗っており、しかも初回に大量4点を奪った。イケイケの状況の中で、板東の頭を“雑念”がよぎった。「これは勝たなくちゃいけない」「追いつかれるのだけは絶対にダメだ」「4点差を守ろう」。その瞬間、頭から、体から“攻める”気持ちが消えた。守りに入ったことで一気に崩れ、初回が終わるまで立て直すことができず「イニングが終わって、やっと気持ちが攻め始めることができた」という。現に2回以降は見違えるような投球を見せ、そこから6回まではわずか1安打ピッチングで投げ抜いた。

 投手というのはこれほどまでに繊細な生き物なのだ。少しでもメンタルの、そしてフォームのバランスが崩れただけでも、パフォーマンスが落ちることがある。常に目の前の打者を抑える、攻める気持ちをどれだけブレずに持ち続けられるか。板東がこの試合で痛感したメンタルの重要性だった。

 この試合の翌日、エースの千賀滉大投手や東浜巨投手らに板東は助言をもらった。

「試合に入り込みすぎると、自分の気持ちが揺れてああいうことになる」

 この言葉の意味を板東はこう解釈したという。「得点に一喜一憂しちゃいけないとか、僕の場合は試合に入り込みすぎてはいけないっていうふうに思っているんです。点を取ってくれてるときに安堵する気持ちとか、点を取ってくれないからムシャクシャするとか、そういうところに気持ちを入れていたらパフォーマンスに影響する」。この経験がリーグ最終戦で見せた安定した投球にも繋がった。

 大きな失敗から学んだ大きな糧。8月の仙台の悪夢があったからこそ、板東はメンタルの重要性を再認識した。大きな成長を遂げた右腕が、今季は先発ローテの柱になってくれるはずだ。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)