フラフラで投げた700球「記憶が飛びそう」 岩崎峻典を変化させた斉藤和巳監督の助言

斉藤和巳監督(左)と岩崎峻典【写真:森大樹】
斉藤和巳監督(左)と岩崎峻典【写真:森大樹】

岩崎峻典が1年目で味わった悔しさ

 壁にぶつかり、もがいたルーキーイヤー。それでも、周囲の支えがあったから前を向けた。人の気配がなくなったタマスタ筑後。練習を終えた選手たちが続々と引き揚げる中、18時を過ぎても室内練習場の奥でじっくりと話し込む2人の姿があった。来季から2軍を率いる斉藤和巳3軍監督と、1年目の岩崎峻典投手だった。

 岩崎は5月25日のオリックス戦(鹿児島)で1軍デビューを果たしたが、1イニングを4安打3失点と結果を残せず、今季の1軍登板はこの1試合のみに終わった。ファームでは6月から先発に転向するも、24試合の登板で3勝5敗、防御率4.52と“プロの壁”にぶつかった。

「プロは甘くないという現実を突き付けられました。今はもう、それしか感じていないです」。右腕はルーキーシーズンをこう振り返る。動作解析のフィードバックを受け、斉藤監督にアドバイスを求める中で始まった対話。そこで受け取ったのは、プロの世界で活躍するために不可欠な“姿勢”だった。

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斉藤監督が明かす「打たれるわけがない」自信の源泉
700球の猛練習の末に岩崎が掴んだ「確かな手応え」
先発ローテ入りへ。岩崎が宣言した2年目の「目標」

「俺がマウンドに上がった時は、絶対に誰にも負けない自信があった。それくらいの練習をやってきた。365日、24時間、ずっと野球のことを考えてきた。だから、打たれるわけがないと思ってマウンドに立っていた。それぐらいやってみろ」

 指揮官が伝えたかったのは、いたってシンプルな思考法だった。「1軍で活躍したい」という気持ちがあるなら、成績を残している選手よりも練習をしないと追い越すことはできない。「つらいことから目を背けるのではなくて、マウンドで自信を持てるぐらい練習しよう」との思いだった。

「チームには毎年新しい選手が入ってくる。でもそういう選手が結果を残したら、そちらが優先になる。だからこそ、もう今やるしかない。しんどいこと、つらいことももちろんあると思う。でもそこでこらえて前に進むか、背を向けるかで、その先に大きな違いが出てくる。分かっているはずだし、分かっているなら『やろうよ』と。『やるしかないぞ』って」

 選手と指導者が同じ方向を向かなければ、成長は加速しない。その思いを共有して一緒に前を向きたいという斉藤監督の願いが込められた言葉だった。

秋季練習では700球以上投げ込んだ

 その言葉に呼応するかのように、岩崎は秋季練習で「チームで1番球数を投げる」をテーマにブルペンで投げ込んだ。「目が回って、記憶が飛びそうっす」とフラフラになりながら、練習の最終日には251球を投げ込んだ。2週間あまりで700球を超える球数を投げ抜き、その先に確かな手応えもつかみ始めていた。

「やっぱり『一番投げた、誰よりも投げた』ってことが自信にもなると思うので、やろうと決めました。1番しんどいことをやっているんですけど、だからこそ前向きになっています。もう腕とかも力が入らないので、大きい筋肉で投げないとダメになる。しっかり全身を使って投げられているのかなと思います」

 課題の出力を上げるためウエートトレーニングにも取り組み、秋季キャンプ期間に約3キロ増量した。「球速もそうですけど、1年間戦える体力が無かった。先発ローテーションに入って中6日で回ることを考えたら、絶対に今の体では無理。基礎体力や投げる体力をメインに取り組んで、1年間戦える体にしようと取り組んでいます」。

 1年目に味わった悔しさを胸に、がむしゃらに前を向く。「来年こそは1軍のローテを目指します」。岩崎峻典が2年目の飛躍を誓った――。

(森大樹 / Daiki Mori)