海野隆司が首脳陣を手招き…“分岐点”で感じたエースの意思 佐藤輝明を申告敬遠した裏側

リバン・モイネロ(左)と海野隆司【写真:栗木一考】
リバン・モイネロ(左)と海野隆司【写真:栗木一考】

6回無死二塁となったところで佐藤輝明を申告敬遠

 ターニングポイントで自ら首脳陣を「呼び出した」。1年間コンビを組んできたからこそ、エ-スがマウンド上で示した“意思”を感じ取った。2-1で競り勝った28日の日本シリーズ第3戦(甲子園)。投手陣が最後まで最少リードを守った中、海野隆司捕手の“判断”が分岐点となった。

 先発は今季のホークスを支え続けたリバン・モイネロ投手。大熱戦を演じた日本ハムとのクライマックスシリーズ第6戦から、中7日でマウンドに向かった。初回、佐藤輝に適時二塁打を浴びたものの、その後はゼロを並べていく。打線が6回に勝ち越した直後の守備で、最大のポイントが訪れた。

 先頭の森下を四球で歩かせると、佐藤輝への4球目に二盗を決められた。無死二塁、カウント3ボール1ストライクとなったところで、微妙な“間”が生まれた。ベンチに向けて手招きをし、タイムをかけたのが海野だ。倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)と話し合った結果、虎の主砲を申告敬遠。後続の3人を打ち取り、見事に無失点で切り抜けた。モイネロの表情に生まれたわずかな変化を、海野は見逃さなかった。

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続きの内容は

・海野捕手が明かす、申告敬遠の真意とは
・モイネロ投手の“心情”を読み取った瞬間
・短期決戦を制した海野の「覚悟」

日本シリーズでも口にした「腹を括る」

「はっきりした方がいいと思ったので、呼んで話をした感じです。ベンチの意図もあったので、それを確認して申告敬遠という形になりました」

 今シリーズで佐藤輝は3試合連続で打点を記録。レギュラーシーズンでも40本塁打、102打点で2冠に輝いた阪神の主砲は、ホークスを相手にしても打棒をいかんなく発揮していた。マウンド上のモイネロから感じ取ったのは「歩かせた方がいい」との意思だった。「そうじゃないですかね。無理に勝負する必要もないですし。そこはあったんだと思います」と振り返った海野。勝負どころを見極めた2人の勝利だった。

 今季はポストシーズンも含め、モイネロが登板した全ての試合でバッテリーを組んできた。何度も激闘を経験し、誰よりも深くエースの考えを理解してきたつもりだ。4回以降は毎回得点圏に走者を背負ったが、虎打線を1点に封じた。捕手としての力量を発揮して勝ち取った1勝。試合後は「腹を括ってやるしかない。勝ったので、それが一番よかったです」と静かに胸を撫で下ろしていた。

首脳陣も挙げていた鍵…見極めた勝負どころ

 日本シリーズは最大でも7試合。勢いという要素も重要な短期決戦だ。首脳陣の1人は「打たれても、どこで打たれるか」と短期決戦のキーポイントを挙げていた。この日に当てはめると、初回にこそ失点を許したが、取り返す攻撃は少なくとも8回は残っていた。試合の後半へと差し掛かっていく6回に同点とされていれば、その後の采配にも大きな影響を与えていたはずだ。重要な局面において、判断を間違えなかったことが貴重な勝利につながった。

 海野はレギュラーシーズン中も「腹を括る」という言葉を繰り返してきた。迷うことなく、退路を断つように選択した申告敬遠には、正捕手としての確かな成長が見えた。「意識するのは彼(佐藤輝)だけではないですけどね。いろいろと考えながらやっていきます。ここまできたら、あとはやるだけなので」。頼もしい表情で語った背番号62。捕手として日本一を掴み取るまで、あと2勝だ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)