4出塁で貢献…3回には日本シリーズ初安打
異様な雰囲気が包み込む頂上決戦。自らの「緊張」を受け入れて、大切な仕事を果たした。26日、みずほPayPayドームで行われた日本シリーズ第2戦。4出塁で勝利に貢献した柳町達外野手が語ったのは、伴元裕メンタルパフォーマンスコーチから授かった貴重な助言だった。
いきなり重要な場面が訪れる。1点を追う初回無死一、二塁で打席に入ると、1球目に対してバントの構え。スッとバットを引くと、二走の柳田悠岐外野手が飛び出してアウトとなった。「とにかく自分ができることをやろうと思って、打席には入っていました」。結果的に四球を選び、栗原陵矢内野手の同点打と山川穂高内野手の勝ち越し2点打を呼び込んだ。レギュラーシーズンでは出塁率.384でタイトルを獲得。存分に持ち味を発揮して、打線の“潤滑油”になってみせた。
25日の初戦は4打数無安打。2度の得点圏で凡退し、打線も1得点に終わった。一夜が明けたこの日も、自分の判断が絡んでアウトを与えてしまった。試されるように次々と訪れた苦難に対して、柳町はどのように胸中を切り替えていたのか。そこには28歳らしからぬ達観した考えが存在した。
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続きの内容は
柳町選手が語った「意外な心境」
伴コーチが明かした、緊張を力に変える「助言」
柳町選手が実践する、大舞台での集中
25日の初戦では“最後の打者”に…一夜で見せた切り替え
「『やっちゃった』って引きずる部分もすごくあるんですけど、やるしかないので。へこんで終わっていたらもったいないと思いますし、試練を与えられていると思って頑張っていくしかない。今までの経験もそうだし、これからも試練はいっぱい来ると思うんですけど。そこでへこんでいたらいけないのかなと思います」
最大でも7試合で終わる日本シリーズ。ミスを悔やんでいる間に終わってしまうのが短期決戦だ。第1打席で柳田がアウトになった直後の心境についても、具体的に振り返った。「あの瞬間は本当に『やっちゃった』って思いましたけど。正直、打って取り返すしかないと思いました。ドキドキはしましたけど、いい切り替えができたのかなと思います」。
今季がプロ6年目。酸いも甘いも経験して、やっと自分だけのポジションを掴み取った。だから柳町の気持ちが簡単に折れることはない。「初戦の最後もサヨナラのチャンスで回ってきましたけど。センターフライはあくまでも結果。打席の中での意識という部分では、納得できるじゃないですけど。悲観するものではなかったので、しっかりと準備して切り替えられました」。反省と切り替えの“棲み分け”を自分なりに済ませて、この日の第2戦を迎えていた。
伴コーチが明かしていた柳町達とのやり取り
“メンタルのプロ”である伴コーチは、柳町とのこんなやり取りを明かしていた。「彼はいまだに『きょう緊張します』って言う。でもプレッシャーっていうのは集中力が増すためには必要なんです。だから『それって悪いこと? いいことだよね』って話をします」。端的な言葉で背中を押す。重圧がかかる場面において、タイトルホルダーとなった28歳はどのようにして自分の気持ちを整えているのか。
「大事な場面であろうと緊張しない日もあるし、普段のペナントレースでも『なんかきょう緊張するな』って日もあります。これはもうコントロールできないことなので。アガるのは悪いことだとも思わないですし、むしろ緊張している時の方が僕はいいパフォーマンスができると思います。それがない方が『あ、ヤバいな』って、いつもと違う感じがしてしまうので。やるべきことを1つに絞って、しっかりと集中することですね」
“緊張しないように”、と考えるのではない。重圧を受け入れたうえで、自分自身の役割を明確にしておくことが必要だ。「気持ちを整えられているかと言われたらわからないですけどね。緊張するのは自然現象というか、コントロールするのが無理なことなので」。乗り越えてきた試練の数だけ、たくましくなった。最後の山を登るためにも、背番号32の存在が必要不可欠だ。
「冷静に臨むことができましたし、なんとかつなぐことができてよかったです」。1勝1敗となり、28日からは敵地・甲子園に舞台を移す。阪神ファンの大声援に包まれようとも、自分を見失うことなく役目を果たす。最大で残り5試合、柳町達のバットが必ずチームを救ってくれる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)