2022年から3年間で103試合に登板も…今季は1軍ゼロ
ソフトバンクは9月30日に又吉克樹投手と来季の契約を結ばない旨を伝えたことを発表した。又吉は2021年オフにFAで中日からホークスに移籍すると、2022~2024年には救援として計103試合に登板。しかし今季は1度も1軍登板がなく、ファームでシーズンを過ごした。
2軍戦での登板についても27試合のうち12試合が先発登板で、チーム事情により本職の救援で投げる期間は短かった。こうした事情もあり、戦力構想外となってしまったことをやや気の毒に感じているファンも多いようだ。実際に又吉は戦力構想外になるほどの状態だったのだろうか。
又吉が今シーズン、ファームで見せていた投球をあらためて振り返ってみる。今季は75回1/3を投げて4勝5敗、防御率3.58。1軍よりレベルが低いファームであること、また今季が極端な「投高打低」の環境だったことを考えると、決して優れているとは言い難い数字だ。
ただ、こうした数字には“ノイズ”が多く含まれており、選手の力量を適切に反映できているわけではない。投手のパフォーマンスそのものによりフォーカスしたセイバーメトリクスのスタッツで見るとどうだろうか。今回は「K-BB%」という指標で又吉を再評価したい。K-BB%は対戦打者に占める三振の割合「K%」から、四球の割合「BB%」を引いたものだ。三振を多く奪い、四球が少ない優れた投球を見せるほど高い数字となる。
このK-BB%で今季の又吉の投球を見ると、値は8.2%。ウエスタン・リーグ全体の平均が8.8%であることを考えると、ファームでの投球にもかかわらず、平均レベルにとどまっていたことがわかる。これを見ると、やはりなかなか難しい状況に見える。

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続きの内容は
・又吉が本職で見せた「驚異の数字」とは
・ホークス救援陣の「圧倒的強さ」の秘密
・ワンポイント起用が激減した「真の理由」
本職の中継ぎで跳ね上がった「指標」とは
ただ前述した通り、今季の又吉は慣れ親しんだ救援ではなく、先発で投げる機会も多かった。本職の救援で見せたパフォーマンスはどうだったのか。先発、救援で分けて見ると、やはり出来はくっきりと分かれてくる。K-BB%は先発時が5.7%であるのに対し、救援時は15.3%まで一気に跳ね上がる。又吉が先発として生き残るのが難しかったのは確かだろう。しかし、適性のある救援に限れば、ファームで残した数値は素晴らしかった。
さらに言えば、より「局所的な場面」に限定すると、優秀さが際立ってくる。救援時の成績を対戦打者の右打ち、左打ちで分けると、左打者に対してのK-BB%が10.8%と凡庸であるのに対し、右打者に対しては18.8%まで上昇する。やはり、又吉はまだまだ高い能力をファームで示していた。救援かつ右打者に絞れば、1軍でも十分に使い道はあったと言えるだろう。
おそらくホークスのフロントもこういった状況は把握していたはずだ。それにもかかわらず、こうした決断をとった理由はなんだったのだろうか。
その答えは、ホークスの救援陣があまりにも強力すぎるからだ。ご存知の通り、今季のホークスは“藤松杉”をはじめとした圧倒的な救援陣がリーグ優勝に大きく貢献した。その強力さはデータで見ると、より実感しやすいかもしれない。さきほどのK-BB%をパ・リーグで比較したのが以下の図だ。

1イニングを完結できる投手ばかりの救援陣
これを見ると、ホークス救援陣が叩き出した数値はなんと18.4%。他球団が10%強、2位の日本ハムですら13.8%にとどまる中で、明らかに頭一つ、いや二つ抜けた数字を記録している。個人で見ると藤井皓哉が31.3%、杉山一樹が23.0%、松本裕樹は22.9%。ホークスの救援陣の優秀さがよくわかる。
さきほど見た又吉は、救援時の対右打者、しかもファームでの投球で18.8%という数字だった。非常に優秀な数字と言えるが、現在のホークスの救援陣は1軍で同様の投球を見せるのがスタンダードというレベルにまで高まっている。
こうした事情もあってか、今季のホークスは救援投手が打者1人だけの対戦のために登板する、いわゆる「ワンポイント救援」が極めて少なかった。例年は20回程度、2018年には57回もあったワンポイント救援は、今季わずかに4度のみ。これは12球団で最少だった。しかも、この4登板はいずれも2アウトから最後の1人を締めるために登板したもの。相手打者の左右に合わせ、イニング内で投手をスイッチするワンポイント起用は今季1度もなかったのだ。

こうした起用の背景には、ワンポイント適性を持つ投手がいなかったという事情もある。かつての森福允彦投手や嘉弥真新也投手のような圧倒的な「左キラー」がいたら、当然ワンポイント起用も増えただろう。ただ、そういった投手がいなくても、今のホークス救援陣は打者の左右にかかわらず1イニングを完結できる投手で埋まっているのだ。
シビアな判断を下された又吉は、決して1軍レベルで通用しないとは断言できない。救援で、なおかつ右打者限定なら十分戦力になるはずだ。そして、そういった起用を行いたい球団は、日本球界にもあるだろう。しかし、ホークスの救援陣はもはやそういったレベルにはない。又吉の戦力構想外は、ホークスのレベルの高さを証明する出来事だったようにも解釈できる。
DELTA http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。