応援は「当たり前じゃない」 上沢直之が語る鷹ファンの存在…大切にする“一通の手紙”

上沢直之【写真:小林靖】
上沢直之【写真:小林靖】

移籍1年目で規定投球回にも到達「健康な証」

 些細なやり取りが、胸の中に残っている。プロの影響力、そしてホークスファンの純粋さを強く感じた“一通の手紙”だった。「本当に、応援してもらえるだけでありがたいことです」。移籍1年目のレギュラーシーズンを終えて、上沢直之投手は感謝の思いを口にした。

 2023年オフにポスティングシステムを利用して米大リーグに挑戦。1年での日本球界復帰を決断し、移籍先に選んだのはホークスだった。新天地での1年目。23試合に登板して12勝6敗、防御率2.74と堂々たる成績を残してリーグ優勝に貢献。規定投球回にも到達し「そこを投げて初めて、チームの力になれたなと思える。長い目で見ても健康で投げられている証なので、そこはよかったです」と語っていた。

 ホークスファンにとっても、上沢のたくましい姿を目に焼き付けた1年間だったはず。2月の春季キャンプ中、時間があればサインを書き続けた。「わざわざ来てもらっているので」。何十分とペンを走らせることは珍しくない。開幕以降もピンチを抑えれば雄叫びをあげ、チームの力になろうと自分の全てを費やしてきた。最後まで応援したくなるような姿勢を貫いたのは、ファンに対する右腕なりの“向き合い方”だった。

会員になると続きをご覧いただけます

続きの内容は

上沢投手が語る、米国での経験が変えた「野球観」とは
親子ファンからの手紙に隠された、上沢投手の「真の喜び」
消化試合で見せた、上沢投手の「プロとしての哲学」

応援してもらえるのは「当たり前じゃない」

「とにかく結果を残さないといけなかった。それができないと応援もしてもらえないですから、まずはそこに集中するようにしていました。でも時間ができたらなるべくサインも書きたいし、どんな理由であれ、そこから応援する気持ちになってくれたら僕もありがたいですからね」

 米国での1年間が、上沢の思いをより強くさせた。「結果を残さないと目にも止まらないし、好きにもなってもらえないですよ。それがこの世界だとも思いますし」。自分の中で、目標と芯は絶対に変えない。そのうえで「時間があればファンの方ともお話したいですし、アメリカにいた時はマイナーリーグにいたので、サインを求められることもなかった。それもやっぱり結果を残していないからじゃないですか」と穏やかな表情を浮かべた。

 2024年は上沢のキャリアにとっても厳しい1年だった。自分の持ち味と、“アメリカの野球”の狭間で思い悩んだシーズン。「応援してもらえることは当たり前じゃないですよ。辛い期間ではありましたけど、だからこそ大切にしたいですよね」。マイナーリーグの球場で、日本ハムのユニホームを着たファンを見かけたこともある。長年、応援してくれるファンの存在をしっかりと認識しているから、感謝の思いは絶対に忘れない。

親子のファンに書いたサイン…その後日に起きた出来事

 印象的な出来事が、夏場にあった。タマスタ筑後の残留練習に参加し、親子のファンにサインを書いた。「確か夏休みの初日だったんですよ。そのサインの後日、母親とその子どもたちから『そこから野球、宿題を頑張るようになりました』というファンレターが来たんです。それは嬉しかったですね。ちょっとでも思い出に残ってくれたのならよかったです」。福岡の街中を歩いていると、男子学生3人組から「球場まで応援に行きました」と声をかけられたこともある。ホークスがどれだけ愛されているのか、身を持って知った1年間だ。

 規定投球回に到達したのは、10月3日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)だった。9月27日にリーグ優勝を決め、“消化試合”という位置づけだった一戦。2回無失点で降板となったが、感情を前面に出す右腕にとって「プロの姿」が問われるマウンドだった。

「変わらずに投げることは意識していました。それがプロだし、順位が決まったからどうこうじゃなくて。レギュラーシーズンと同じ思いで投げること。そこで気持ちを抜いてしまうと、選手としての“終わり”も早くきてしまいそうな気がするし、それは違うなと思ってマウンドに上がりました」

 15日からクライマックスシリーズのファイナルステージを戦う。みずほPayPayドームを熱くするために、全力で腕を振るつもりだ。「福岡の方々はみんな野球が好きですよね。それは野球場にいなくても感じますし、本当にありがたいです」。チームを日本一に導くことで、ホークスファンを心から喜ばせたい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)