借金7の最下位…どん底脱出に繋がった“首脳会談” 小久保×城島体制が発案した逆襲への一手

独占インタビューに応じた三笠杉彦GM【写真:小池義弘】
独占インタビューに応じた三笠杉彦GM【写真:小池義弘】

「城島CBOにお任せしてやった年で、それはとても機能した」

 鷹フルがお送りする三笠杉彦GMの独占インタビュー。ラストとなる5回目は、今季から本格始動した城島健司CBO(最高野球責任者)と小久保裕紀監督の「新体制」が生み出した化学反応、そして最先端技術がもたらした劇的な変化について迫ります。(取材・構成=長濱幸治、福谷佑介)

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 2025年シーズン、ホークスの組織体制に大きな変化があった。城島健司CBOの就任である。球界のレジェンドにして、小久保裕紀監督とは現役時代からの盟友。それぞれが現場とフロントの責任者としてタッグを組んだ新体制が、シーズンを通して重要な役割を果たした。

 城島CBOは単なる象徴的な存在ではない。小久保監督とともに王貞治球団会長の“王イズム”を継承する者として、球団の先頭に立った。フロント全体を統括しながら、同時に指揮官のアドバイザー的な役割として現場とフロントの架け橋となる。それは、従来の球団運営には見られなかった形だった。

 三笠GMは昨年からの変化をこう語る。

「去年に比べて、直接的に僕と監督がいろんな話をして、こうしましょうっていうよりかは、昔からの盟友でもある城島CBOと小久保監督が話し合って出てきたものを、僕らが聞いて実行に移す、対処するというスタイルを意識してとっていました。城島CBOにお任せしてやった今年、それはとても機能したんじゃないかと思っています」

 これまで小久保監督と直接コミュニケーションをとることが多かった三笠GMだが、今季はその窓口を城島CBOに託した。そして、この新たな体制が、一時の低迷からV字回復を描いたチーム状況の好転に、決定的な役割を果たすことになる。その裏には、借金が膨らみ最下位に沈んだ時期に、首脳陣が下した異例ともいえる決断があった。

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続きの内容は

・V字回復の裏にあった、小久保監督と城島CBOの「異例の決断」
・低迷する1軍に投入、専門コーチ陣が果たした「重要な役割」
・若鷹が急成長、最新鋭マシンが起こした「打撃革命」の舞台裏

 その1つが、伴元裕メンタルパフォーマンスコーチと、長谷川勇也、明石健志、菊池拓斗という3人のスキルコーチのベンチ入りである。

「伴さんをベンチに入れたりだとか、スキルコーチを1人(ベンチに)入れるという話については小久保監督の発案で、城島CBOと話をして実際に形にしました」

 伴コーチと3人のスキルコーチは本来、2軍を中心にファームの底上げを図る役割を担っていた。精神的に不安定な選手や、技術面に課題のある選手に寄り添って成長を加速させることが狙いだった。しかし、柳田悠岐外野手をはじめとする主力の相次ぐ故障で、若手が1軍に大量昇格する事態に。これを受け、小久保監督と城島CBOの話し合いの末、異例の配置転換が決まった。

「1軍が苦しい時期だったので、1軍のパフォーマンス向上に向けてやった方がいいだろうと判断」

「フロントとしては、実はこうやって1軍に(伴コーチやスキルコーチが)ベタっと張り付くことについてはメリットとデメリットがあると考えていました。最終的に何が重要だっていうことを判断した中で、彼らが入る前は1軍が苦しい時期だったので。1軍のパフォーマンス向上に向けてやった方がいいだろうという判断をしました」

 三笠GMは率直に明かす。伴コーチは1軍に帯同、スキルコーチは長谷川コーチが1軍に同行し、明石、菊池の両コーチが主にファームを指導する体制となった。

「主力に想定外の怪我人がたくさん出て、メンタル面やスキル面でサポートが必要な選手が多く1軍にいるという状況になったので。それを優先してやろうということになった」

 結果的にこの策は大成功だった。伴コーチが試合中も含めてベンチで選手のメンタルケアにあたり、若手を中心に長谷川スキルコーチが目を光らせて助言を送った。苦しい状況下で柳町達外野手や野村勇内野手といった中堅が成長し、山本恵大外野手や笹川吉康外野手らも頭角を現した。チームの劇的な復活を支える、大きな原動力となったのだ。

 そうした若手が急成長を遂げたもう1つの要因に、最先端機器の活用がある。今季から最新鋭の打撃マシン「トラジェクトアーク」を導入。対戦投手の映像が画面に映し出され、その投手の球種に応じた球速や回転数、回転軸が忠実に再現されるバーチャルマシンだ。

「そういう(最新の)ものはもう全部取り入れろと孫オーナーにも言われていますので。とにかく入れられるテクノロジーはどんどん入れると。王イズムに加えて、球団としての最先端の技術を取り入れて、それを融合してチーム作りをすることが重要。どちらかだけではダメだと思っています」

 本拠地みずほPayPayドームのベンチ裏にある練習場には、このマシンの打撃ケージが新設され、選手たちが日々活用している。昨季までは練習スペースが狭く順番待ちの列ができていたが、オフの改修工事でベンチ裏の練習スペースを拡大。より効率的に練習に取り組める環境も整えた。

 こうした取り組みは、着実に成果として表れた。トラジェクトアークを最も活用したという野村勇は、山川穂高内野手に次ぐチーム2位の12本塁打を放ち、今季最も成長を遂げた選手の1人となった。

 コーディネーター制度、メンタルパフォーマンスコーチ、そして最先端技術。王イズムを継承しながら、同時に球界の最先端を走り続けることこそがホークスの「アイデンティティ」だ。組織改革と最先端テクノロジーの融合。常勝軍団は“過去”に安住することなく、常に“未来”を見て進化を続けている。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)