【独占告白】「早く帰っていた」本当の理由…連覇の裏で山川穂高が耐えた”痛み”と苦悩

山川穂高【写真:古川剛伊】
山川穂高【写真:古川剛伊】

歓喜の輪で硬い表情のまま…その意味は

 ホークスは2年連続のリーグ優勝を飾りました。鷹フルでは主力選手はもちろん、若手やスタッフにもスポットライトを当てながら今シーズンを振り返っていきます。山川穂高内野手が明かしたのは、シーズンを通して苦しんだ不振の要因でした。“言い訳”を一切することなく、自身を見つめ返した主砲。「それができなかったのが一番」。知られざる苦悩がありました。

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 歓喜の輪が幾重にも広がっていく。ナインが、そして首脳陣が満面の笑みで抱き合い、何度も拳を突き上げた。2年連続のリーグ優勝。感情を爆発させる選手達の中で、山川穂高内野手の表情にはどこか硬さが残っていた。チームメートから手荒い祝福を受けても、会心の笑顔を見せることはなかった。

 昨季は全143試合に4番として出場し、本塁打王と打点王の2冠に輝いた山川。移籍2年目となる今季ももちろん、誰もが期待を寄せた。だが開幕から不振が続き、6月16日には登録を抹消される屈辱も味わった。 丸刈りで1軍に復帰してプレーを続けたが、最後まで本来の姿を取り戻すことはできなかった。それでも、チームは苦しみながら連覇を果たした――。

「今年は成績が低迷してるってなっていますけど、僕からしたら去年もダメなんで。全然ダメだったんで。来年は……」。シーズン終盤、まだ誰もいない試合前の静かなドームの片隅で、山川は絞り出すようにこの2年間を振り返った。移籍2年目で直面した苦悩。そして、最後まで自身を苦しめ続けた「準備」の欠如。栄光の裏で人知れず続いていた戦いを初めて明かした。

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続きの内容は

・山川穂高が明かした「早く帰っていた」本当の理由
・シーズンを通して山川穂高を苦しめた不振の要因
・山川穂高が語る「心の保険」と数字の重圧とは

「早く帰っていた」真相…満身創痍の体

「みんなより早く来て打って、みんなより遅くまで打って帰るっていうのが僕のスタンスなので。それができなかったのが一番の理由ですね」

 言い訳は一切なかった。自身の不振を認めた上で、その最大の要因を語る。移籍1年目の昨季、本拠地での試合後には打ち込みを続けていた山川。だが、今季は選手やスタッフを含めても早い時間に帰路に就く日が多かった。

「僕、今年早く帰っているでしょ? 開幕して手首を痛めて、足首も痛めて。それがやっぱり治らなかったので。試合で打つ分には大丈夫なんですけど、試合後の打ち込みができなかったんです」

 誰よりも練習がしたい、しかし体がそれを許してくれない。練習量の絶対的な不足が、本来の打撃を取り戻せない最大の理由だった。もがき、苦しみ、それでもグラウンドに立ち続けることを選んだ。「なんと言われようが出続けて、ここに居続けることですね。それは大切にしてきたので」。その言葉に主砲としての矜持と責任がにじむ。終盤戦に入ると、まだ暗いドームのスタンドでランニングをするなど、試行錯誤を繰り返していた。

なかった“心の保険”…数字が与える重圧

 改めて開幕ダッシュの大切さを実感するシーズンにもなった。シーズン途中の立て直しは難しかったと語る。「最初の100打席、200打席で(打率が)3割近くて、ホームランも10何本とか打っておかないと、ちょっと厳しい」。シーズン当初の不振をこれほどまでに痛感したシーズンはなかった。

「スクリーンに出ている数字っていうのは、“心の保険”になるので。例えば今と全く同じ体の状態とか、全く同じバッティングの状態でも、3割とか、ホームラン40本とか数字が残っていたら、多分打てているんですよ。今年はずっと低迷していましたけど、あそこから上げるのってやっぱり難しいなって改めて思いました」

 悲願のリーグ連覇。優勝を決めた時点での山川の成績は、打率.225、21本塁打、56打点。数字の上では物足りない結果に終わったかもしれない。だが、主力を多く欠いた今季において、1軍に長く居たことの意味は決して小さなものではない。本拠地でかけた13本のアーチ。スタンドが一体となった“どすこい”は何度もチームを勇気づけた。ポストシーズンという最高の舞台で、その存在価値を改めて証明してくれるはずだ。

(飯田航平 / Kohei Iida)