疑心暗鬼で感じた孤独「影では…」 覚悟の決断、上沢直之が赤裸々に語った逆風の鷹移籍

入団時の疑心暗鬼「ホークスの選手も…」

 ホークスは2年連続のリーグ優勝を飾りました。鷹フルでは主力選手はもちろん、若手やスタッフにもスポットライトを当てながら今シーズンを振り返っていきます。上沢直之投手が改めて語ったのはホークス入団をめぐる“逆風”。SNSの誹謗中傷、世間からの声をどう受け止めたのでしょうか。チームメートですら「誰もよく思っていないんじゃないか」と孤独を感じた日々も。ホークスの一員になれたと感じた瞬間とは――。

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 満面の笑みで歓喜の輪に加わった。今季加入した上沢直之投手は移籍初年度で12勝を挙げ、リーグ優勝に貢献。自身にとっても1軍で優勝を経験するのは初めて。10か月前、笑顔のなかった入団会見とは正反対の表情だった。

 2023年オフ、日本ハムからポスティングシステムを利用して海を渡った。夢見たメジャーのマウンドに立ったのはわずか2試合。5月以降はマイナーでの登板が続いた。右肘を痛めたことも重なり、シーズン途中に帰国の途についた。わずか1年でNPBに復帰する決断を迫られた右腕が選んだのは、古巣の日本ハムではなく、ホークスだった。

 自ら決めた選択に迷いも後悔もない。それでも“疑心暗鬼”に陥ることはあった。「ホークス内部の人や選手も、誰もよく思っていないんじゃないか」。覚悟の入団、SNSでの誹謗中傷、入団後の心境の変化――。今だから明かせる当時の思いを赤裸々に語った。

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続きの内容は

・上沢がホークス入団時に感じた「孤独」の理由
・誹謗中傷にどう向き合ったか、その「意外な本音」
・優勝の裏で上沢が実感した「ホークスの一員」とは

「決断自体、僕は何も間違っていないというか。自分の決断を自分で否定するようじゃ何も前に進まないし、そんなことは絶対にしたくない。腹を括って決めたので」

 強い言葉には覚悟と揺るぎない信念があった。2024年12月18日、ホークスから上沢の獲得が発表された。古巣の日本ハム・新庄剛志監督も「悲しい」とコメントするなど、物議を醸した。

事実とは異なる誹謗中傷「結果を残すことでしか見返せない」

 球界OBや関係者、ファンが様々な言葉を寄せ、中には事実とは異なる憶測もあった。自身へも批判の声は届いていたが、反論の言葉を口にすることはなかった。「『事実と違います』って言うよりも、野球で結果を残すことでしか見返せないというか。人生を賭けて結果を残すことに集中していました」。

 SNSでも上沢への心無い言葉が相次いだ。プロの世界は結果が残せなければ、叩かれることは重々承知。「見たことない人の言葉で、自分の気持ちが萎えるのも良くない。自分の人生を無駄にする必要はないし、そこに使ってる時間もない」。周囲の声をシャットアウトして、ただプレーに集中した。

 そして「自分で言うのもなんですけど……」。そう切り出したのは、自らを客観視して出た言葉だった。

「1年で帰ってくるみたいな決断はしたくなかったし、もし他の人が同じように1年で帰ってくるという決断をしていたら、『もうちょっと粘ってやってこいよ』って僕も思っていたと思う。でも、自分の中ではもう1年やれない理由があった」

 壮絶な覚悟を胸に新天地でのプレーを決めたが、入団時は“孤独”を感じたこともあった。「自分が勝手に『影ではこう思われているんだろうな』って感じてしまうことはありました。結果を残さなかったら、どんなにいい人でもやっぱり『アイツいらなくね』って言われる」。そんな思いを抱き、仲間の視線が怖くなることもあった。

「結果を出して、みんなに認めてもらうしかない」

 ただ、そんな思いは日を追うごとに消えていった。「年下はもちろんみんないい人なんですけど、先輩がとにかくいい人すぎるくらいですね。今宮(健太)さん、(中村)晃さん、(東浜)巨さん、ギータ(柳田悠岐)さん、又吉(克樹)さん。有原(航平)さんもずっと一緒にプレーしていたので。嶺井(博希)さんとか、マキ(牧原大成)さんとかも……。みんなめちゃくちゃ優しいですね」。さらにはホークスならではの雰囲気も上沢にとってはプラスに作用した。

「ホークスの選手って補強に慣れているので。移籍組が多いじゃないですか。だからそれもあるのかな。近藤も言っていました。『外から来ることに慣れている』って」

 自身は交流戦後半から調子を落としたが、8月には月間MVPに輝くなど、勝負所の後半戦に活躍。「結果を出すことでしか僕らは評価されないので。成績を残して、みんなに認めてもらうしかないと思っていました」。その言葉通りの活躍で優勝の“ピース”となった。

 決断は間違っていなかった――。自らの力でそう示した上沢。仲間とともに喜びを分かち合った瞬間に、ホークスの一員となれたことを改めて実感した。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)