東浜巨&育成の若鷹が語る柳田悠岐の“凄み”
その声だけで、どこにいるのかすぐにわかる。「ザワさん(中澤恒貴内野手)! ザワさんらしくいこう!」「え、あれどうやって打ったん?」「おっしゃ、ここからや!」--。ナゴヤ球場に響き渡ったのは、聞き慣れた声。柳田悠岐外野手がいるだけで、ベンチは明るくなる。
9日から2軍遠征に帯同し、中日との3連戦全てに「2番・指名打者」として出場した。いずれの試合も4打席目に代打を送られ、治療を経て、試合終盤にまたベンチに戻ってくる。若手に混じりながら、自身の調整とチームの一員としての動きを両立させていた。
3連戦初戦となった9日、投手陣が21安打18失点を喫した。14点を追う9回、野手の空気も自然と暗くなる。そんな中、誰よりもナインを盛り上げていたのが柳田だ。「野球はツーアウトからや!」。劣勢でも明るさを貫く姿に、村松有人打撃コーチは「他の選手にも見習ってほしい」と話していた。そしてチーム一丸となったのが、10日の第2戦。同点の9回に大友の決勝打が生まれ、劇的な勝利を収めた。

手を叩きながら、若鷹と一緒に勝利へ突き進む。8月末に実戦復帰した時は「野球ができる喜びが一番」と語っていた。柳田がいるだけで、こんなにも違う――。その存在感をあらためて感じていたのが、10日に先発した東浜巨投手だ。
決勝打を放った大友宗…打席の中でも聞こえた声
「全然違いましたね。ギーさんの声かけもそうですし、明るいチームになる。それだけじゃなくて、引き締まりますよね。若い子が多いだけに、ベテランが入るだけで変わるのかなと思いました。いい影響を与えますし、存在だけですごいなと思います」
雰囲気を明るくするのはもちろん、「引き締まる」という表現が東浜らしい。常に勝利を目指すのがホークスの野球。どんな声を出せばナインの背中を押せるのか。柳田の姿は、それを深く理解しているようだった。「男前」と呼ばれる板東湧梧投手も「ベンチに帰ってくる時の声かけも面白いですし、一緒にできるのは嬉しい気持ちです」と話していた。1軍昇格を目指す選手にとって、柳田とプレーしたことは確かなモチベーションにもなったはずだ。
10日に決勝打を放った大友は「打った後もすごく盛り上がっていましたし、打席の中でも(声が)聞こえていました」と振り返る。柳田も「宗! 宗!」と下の名前を連呼して喜びを表現していた。26歳のオールドルーキーは自らの持ち味を「大きい声」と胸を張っていたが、背番号9の存在感には舌を巻くしかなかった。
「柳田さんが最年長ですけど、一番先陣を切って元気を出している。みんなもつられて、声を出したくなるというか、雰囲気が良くなっていました。本当に勉強になるし、存在感があるなと思います。練習中でも柳田さんからしゃべりかけてくれて。それもたぶん意識的に後輩がやりやすい環境を作ってくれているのかなって感じるんです。プレーヤーとしても、人としてもすごく尊敬できるなと思います」
高卒3年目の育成選手も「本当に壁を感じない」
「ザワさん」と呼ばれている育成の中澤は、柳田よりも16歳年下の20歳だ。「なんでそう呼ばれているかはわからないですけどね。そういうノリじゃないですか?」とニッコリ笑った。ベンチで隣に座っていた山下恭吾内野手も、驚きを隠さない。「めちゃくちゃ雰囲気が違いました。打てなくてもいつも声を出していますし、僕たちもつられる。何より面白いです。本当に壁を感じないですし、すごくやりやすいです」。年の差なんて関係ない。どんな時も飾らないからこそ、チームメートから愛されてきた。
気になるバッティングの状態について村松コーチはこう話した。「ボールの見え方自体は悪くない。いろんなコースにも反応できているし、こっち(打撃)だけならある程度はいけるかなと思います」。実戦復帰を果たして31打席を消化。打率.185ではあるが、確かな“兆し”は見えている。
小久保監督は昇格のタイミングについて「走れているかどうか。走った次の日の状態を見ていく感じです」と言及。守備や走塁面の不安がなくなることを“条件”に挙げていた。1軍は3連敗を喫し、足踏みしている状況。リーグ連覇の“ラストピース”こそ、柳田悠岐の存在だ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)