「ビビっていたらダメ」 海野が上沢に伝えた言葉…1死満塁で描いた“決着のイメージ”

7回1死満塁でマウンドに集まる上沢直之と海野隆司【写真:古川剛伊】
7回1死満塁でマウンドに集まる上沢直之と海野隆司【写真:古川剛伊】

7回1死満塁から連続三振…海野が語った舞台裏

 誰よりも早く“嫌な流れ”を察知していた。「ビビってやっていたらダメなので」。絶体絶命のピンチの中、腹を括っていたのは海野隆司捕手だ。1点も与えられない状況で、キャッチャーとしての成長がハッキリと見えた。

 20日の西武戦(みずほPayPayドーム)、チームは5-4で接戦をものにした。勝敗を左右したのは7回だった。先発・上沢直之投手が1死満塁のピンチを招いたが、2者連続三振に抑えて切り抜けた。「ファンの皆さん、ヒヤヒヤさせてすみません……。次はああいう状況にならないように」と反省しながら振り返った右腕。直後に代打・中村晃外野手が決勝打を放ち、今季9勝目を挙げた。

【激しい雄叫び】上沢直之『最後は満塁ピンチ背負うも…今季最多12奪三振で9勝目!』【動画:パーソル パ・リーグTV】

 ピンチを切り抜けた直後、上沢が見せた熱い雄叫び。マスクを被っていた海野は、どんなビジョンを描いていたのか。「とにかくゼロで帰ること。それだけでした」と汗を拭った28歳。窮地を救ったのは、どこまでも冷静なリードだった。

6回にチャンスを作りながらも無得点「なんかある」

「その前、6回の攻撃がチャンスを作って無得点に終わったので。『次の回、なんかあるやろな』っていうのは思っていました。先頭のヒットも嫌な感じだったので、それ(ピンチになること)は覚悟しました」

 ホークスは6回1死一、二塁としながらも柳町達外野手、牧原大成内野手が凡退した。直後の7回、打席には4番のネビン。詰まらせた打球が野手の間に落ちるなど「嫌な流れ」は敏感に感じ取っていた。“アンテナ”を張りながら、事前に策を準備するのが捕手の大切な役割。「チャンスがゼロで終わったり、先頭打者が出たら『ピンチになるやろな』って。ある程度は予測しながら考えています」と続けて語った。

 7回に満塁となったところで、海野はマウンドに向かった。伝えたのは「ここは間違えないでください」というシンプルな言葉。90球だった上沢も「走者が出てからはもう切り替えるしかない。ここからはもう1試合も落としたくないし、同点で凌げば、絶対に打ってくれると思っていた。気持ちでどうにかしようと」。最後の力を、ここで振り絞るつもりだった。

ピンチをしのいで雄叫びをあげる上沢直之【写真:古川剛伊】
ピンチをしのいで雄叫びをあげる上沢直之【写真:古川剛伊】

炭谷も村田も勝負球はストレート…その理由は?

 炭谷、代打・村田を三振に仕留めたのはどちらもストレート。10球連続で変化球を選択するシーンもあった中、最後は力で押し切るという配球に「最初から決めていたわけではないです。カウントが進んでいくにつれて、どういうふうに打ち取りたいのか。決着をつける球はイメージしています」と海野もうなずく。走者で塁は埋まり、バッテリーミスにも相手の作戦にも注意を払う場面。マスクを被りながら、腹を括っていた。

「そこにビビってやっていたら、本当にダメなんで。もちろん後ろにやっちゃいけない場面なんですけど、それをやらないために練習してきたし、不安があったらサインは出せない。とにかく、(心掛けているのは)ピッチャーに気持ちよく投げてもらうために、ですね。あの場面で一番やっちゃいけないのは長打を打たれることだったので、自分から欲しがらないようにはしていました」

 勇気ある選択が好結果につながった。上沢がお立ち台で「ファンの皆さんの声援が、あのピンチを乗り越えさせてくれた。これからも応援、よろしくお願いします」といえば、海野も「よかったです」と胸を張った。今季初の貯金30到達。チームを引っ張るのは、成長を遂げる背番号62の存在だ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)