2010年は攝津、ファルケンボーグ、馬原…2017年は森、岩嵜、サファテが躍動
開幕当初の故障者続出を乗り越え、ついに日本ハムをかわして首位に立ったホークス。5月以降に大きく調子を上げたチームの原動力となっているのが、藤井皓哉投手、松本裕樹投手、杉山一樹投手の“リリーフトリオ”の存在だ。ファンから“藤松杉”とも呼ばれる勝利の方程式は、3人全員が防御率1.50未満。7月5日の西武戦では終盤3イニングに登板した3人が計8三振を奪うなど、凄まじい投球を続けている。ここまでの出来を見ると、比較したくなるのが球史でどれほど傑出しているのかだ。プロ野球の歴史をたどれば優れた救援トリオが数多く誕生しているが、“藤松杉”は彼らにどこまで接近しているのだろうか。
まず比較したいのが、ホークスの歴代救援陣だ。ホークスは過去に数多くの強力な救援スタッフを抱え、幾度も接戦をものにしてきた。中でも印象深いのが、2010年に攝津正投手、ブライアン・ファルケンボーグ投手、馬原孝浩投手の3人で構成された“SBM”、そして森唯斗投手、岩嵜翔投手、デニス・サファテ投手で構成された2017年のトリオだ。“藤松杉”は歴代でも屈指の救援陣に比べ、どのレベルにあるのだろうか。
※データは2025年8月17日終了時点
防御率だけで単純に力の差を測るのは難しい。防御率は投手の力量以外の偶発性に大きく左右される指標だ。打ち取ったボテボテの当たりがタイムリーヒットになったり、ピンチの場面で強烈な打球が守備の正面をついたりと、失点の大小には少なからず偶発性がつきまとう。防御率が良いからといって、必ずしも良い投球を見せたということにはならない。
そこで今回はK-BB%という指標で投球の質を測る。バッテリー間だけで完結する三振と四球に絞ることで、投手本来の力量を見るのだ。打者あたりの三振の頻度を表すK%から四球の頻度を表すBB%を引いた値で、三振をより多く奪い、四球をより少なく抑えれば良い値となる。一般的によく使われるK/BBよりも、投手の力量を的確に表現できる。目安として、K-BB%の平均(2025年)は12.2%である。
この指標で救援トリオを比較したのが以下の図だ。これを見ると、やはり歴代救援トリオがK-BB%の面でも凄まじいレベルに到達していたことがよくわかる。

球史でも圧倒的だった「キング・オブ・クローザー」の数値
まず注目したいのが2010年の“SBM”だ。3人の平均はK%が27.9%、BB%が5.2%。打者4人に1人以上のペースで三振を奪い、約20人に1人しか四球を与えなかった。3人合計のK-BB%は22.8%。リーグ平均の目安12%を大きく上回る圧巻の投球である。
3投手ともに平均を上回る素晴らしい値だが、特に傑出しているのがK-BB%の値が32.6%を記録したファルケンボーグだ。K%が36.1%と3人に1人以上のペースで三振を奪い、BB%が3.5%と約30人に1人しか四球を与えなかった。これでは得点を奪うのは難しい。このファルケンボーグが引き上げる形で、SBMは難攻不落の方程式となった。
そのSBMをさらに上回るのが2017年、森・岩嵜・サファテの3本柱だ。3人平均のK%が28.8%、BB%が4.8%。SBMよりもさらにハイペースで三振を奪い、四球も少なく抑えた。K-BB%は24.0%を記録している。
やはり特筆すべきは“キング・オブ・クローザー”のサファテだ。この年のK%はなんと42.9%、BB%が4.2%。個人のK-BB%は脅威の38.7%。ファルケンボーグをもはるかに上回る圧倒的な投球である。サファテが引き上げる形で2017年のトリオもすさまじい威力を発揮した。
ただ、“藤松杉”はこの2017年トリオをも超える数値をたたき出しているのだ。K-BB%は28.0%。K%は35.1%、BB%は7.1%。前述の2組と比較すると四球はやや多いものの、三振については全員が3人に1人以上のペースで奪っており、“三振特化”のトリオと言える。
また、さきほどの2例と異なるのは、3人全員がまんべんなく優れた数値を記録していることだ。グラフを見てもらうとわかりやすいが、“SBM”であればファルケンボーグ、2017年のトリオであればサファテと、2つのトリオは突き抜けた1投手がけん引する構造だった。
それに対し“藤松杉”は藤井が30.4%、松本が28.4%、杉山が25.9%と、誰が突出するでもなく3人全員が極めてハイレベルなK-BB%を記録している。3人の中でどの投手も攻略が難しい盤石の布陣なのである。もちろんあくまで投手の力量を測る指標の1つであり、シーズンも途中ではあるが、これらを見ると“藤松杉”がホークス史上最高の救援トリオといって差し支えないように思える。
JFKの強みは高い質と圧倒的な“稼働量”
では球団のくくりを取っ払ったらどうだろうか。プロ野球の歴史には伝説的な救援トリオが数多く存在している。中でも難攻不落として多くの人々の記憶に残っているのが、2005年に阪神をリーグ優勝に導いたジェフ・ウィリアムス投手、藤川球児投手、久保田智之投手のいわゆる“JFK”だ。さきほどのK-BB%を使って“藤松杉”を“JFK”と比較したものが以下の図だ。

JFKそれぞれのK-BB%を見ると、やはり印象どおりの圧倒的な数字である。ウィリアムスのK-BB%が21.2%、藤川が34.1%、そして久保田が24.8%。1人の投手(藤川)が傑出しているだけでなく、ほかの2投手のレベルも相当に高い。やはり彼らが「伝説」であったことは数字で見ても伝わってくる。
“藤松杉”と比較すると、どうだろうか。3人平均のK-BB%はさきほども見たように28.0%だった。それに対して“JFK”は27.0%。三振と四球の面から見ると、“藤松杉”はなんとあの“JFK”を上回るレベルに到達しているのである。ホークスファンからすると、今季の7回以降は盤石と感じる人が多いだろう。その実感は正しい。投手の力量に焦点を当ててみると、“藤松杉”はここまで優れているのである。
ただ、これだけをもって“JFK”以上とまでは言えないかもしれない。というのも、“JFK”がすごかったのは質だけではないからだ。以下の表を見ると、確かに“藤松杉”はK-BB%、つまり投球の質では上回っている。しかし“JFK”は稼働量がすごい。3投手あわせて223登板、投球回249.2イニングと、他のトリオに比べても突き抜けて多い。また登板数を投球回が上回っており、かなり多くの回またぎをこなしていたことがわかる。そのうえで“藤松杉”と同等の質だったのである。やはり“JFK”はすごい。

しかし“藤松杉”が伝説の領域に足を踏み入れているのも確かである。もしこの調子でシーズン終了まで終えられたなら、間違いなくNPB史に残る救援トリオとなるだろう。
DELTA http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。