采配の裏側、選手の偽らざる「心境」
手に汗握るとはまさにこのことだ。首位対決に2連勝して迎えた11日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)。1点リードの7回に小久保裕紀監督は大胆な“勝負手”を打った。中堅に佐藤直樹外野手、右翼に川村友斗外野手を投入し、中堅を守っていた牧原大成内野手が二塁へ。二塁の川瀬晃内野手が遊撃、そして遊撃の野村勇内野手が三塁へと、実に4つものポジションを変更する守備固めを行った。
わずか1ゲーム差で迎えたこのカード。ライバルを相手にスイープを決め、ゲーム差を4へと広げたが、その執念はこの回の選手交代にあった。「守備の変更も含めて、1点差で逃げ切ろうと決めました」。この一手は、勝利を絶対にものにするという指揮官の覚悟の表れだった。
このような状況で守備固めとして出場する選手の心境はどのようなものなのだろうか。緊迫した展開と、首脳陣の意図。重圧を一身に背負ってグラウンドに送り出される選手たち。「プレッシャーが全然違います」。ヒリヒリと感じる緊張感と、グラウンド上で張り巡らせる思考について、佐藤直が素直な気持ちを明かした。
極度のプレッシャー…身体に現れる“異変”
「普段はロジンをつけないんですけど、競っている試合の守備固めの時は、めっちゃロジンをベンチでつけてから守備に行きます」
1点差の緊迫した場面でグラウンドに出るのは、スタメンで試合開始から守るのとは訳が違う。そのプレッシャーは、身体に正直な反応として現れると佐藤直はいう。「手汗とかやばいです」。普段はかかないという手汗も、守備固めの場面では噴き出してくる。送球ミスを防ぐためにも、ベンチではたっぷりとロジンをつけて守備に就く。
それでもプレー中に汗をかいたら、グラブで拭うなどして、掌をボールが扱える絶妙な湿り気に抑える。それも、万全を期すための準備のひとつだ。
「普通のフライ」がイージーじゃない
このプレッシャーは、ごく普通のプレーさえも難しいものに変えてしまう。「スタメンの時だったら普通のフライでも、守備固めで出たらイージーじゃないと感じます」。10日の同戦の最終回、マルティネスが放った平凡なセンターフライですら、落下地点に走りながら冷や汗を感じるほどだった。
もちろん、ただ重圧に飲まれているわけではない。「守備が持ち味で試合に出ているので、いつも通りのプレーをしようと自分に言い聞かせています」。打者の特徴や投手との兼ね合いからポジショニングを常に思考する。「後半の1点って、序盤に比べるとポジショニングで全然変わるので。長打があったらダメな時は後ろ目に守るとか、ケースに応じて守備位置を考えています」。1球ごとに頭を整理し、打球に対応する準備は怠らない。
それでも、ピンチになれば感情が昂ることもある。「もう頼むからランナーを進めないでくれと思いながら、必死に守っています」。そんな本音を明かしつつ、プロとしての微調整は欠かさない。1点を死守するための、細やかな準備がある。
シーズンを振り返った時、この首位攻防での3連勝は大きな意味を持つだろう。その勝利は、選手たちの“見えないプレー”の上に成り立っている。
(飯田航平 / Kohei Iida)