一瞬の準備が呼んだ堅実なプレー
「野球の神様は見ている」――。1-0で勝利した10日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)、9回表に三塁の守備に就いた野村勇内野手は、おもむろに土と人工芝の境目を右手で丁寧にならし始めた。先発したリバン・モイネロ投手の完封勝利に向けた期待が高まる本拠地。そんな中で、何気ない仕草に繊細な準備が詰まっていた。
その直後、先頭・松本剛の打球がならしたばかりの土の部分へ飛んだ。野村はこれを難なく捌いてアウトにする。この一連の流れを、背番号99は「気持ちは楽でしたね。そこに『穴』があると思ってやるのとは違います」と振り返る。プロとして当然のプレーかもしれないが、グラウンドをならす仕草には、偶然を必然に変えるための思いが込められていた。
「まだレギュラーではないので、いろんなポジションを守らないといけない。そこでポジションが変わったからとか、固定していないからとか、任されていないからエラーしました、とかは『なし』だと思っているので」
よぎった不安…「見た目から嫌だな」
守備前に土をならした理由を問うと、野村は率直な気持ちを明かした。「守備についたときに『なんかここ嫌だな』っていうのが、見た目からありました」。守備の名手であっても、イレギュラーバウンドは常に恐怖と隣り合わせだ。自らの手で不安を取り除いたからこそ、冷静に対処できた。
この細やかな気遣いを、奈良原ヘッドコーチは「野手っぽくていいよね。それぐらい繊細なこともできている。野球の神様は見てくれているよね」と高く評価する。
このアウトが称賛されるべきなのは、試合中に守備位置が変わるという難しい状況で生まれたことだ。この日、「7番・遊撃」でスタメン出場した野村は、8回から三塁に回っていた。「難しいですね。ショートからサードへ行くと(打者との)距離も近いし、反応が遅れたりするので」と、その難しさを認めている。
奈良原ヘッドコーチも「自分も経験があるけど、やっぱり簡単じゃない。景色も変わるしね」と、試合中のポジション変更がいかに難しいかを代弁する。見える景色、打球への反応、バウンドの感覚。すべてが変わる中で、当たり前のようにプレーすることは、思うほど簡単なことではない。
変わる景色の難しさ
結果は平凡な三ゴロだが、そのアウト1つを取るための備えは、日々の練習の中にある。奈良原ヘッドコーチは言う。「(川瀬)晃にしてもそうだけど、練習から両方やってもらっている。本人もそういう動きを想定した練習をやってくれているからね。僕らはその準備を信頼するだけですね」。
定位置確保への渇望が、グラウンドの土をならす一手間となり、確実なワンプレーに結びついた。野村の真摯な姿勢がもたらしたアウトだった。故障で離脱している今宮健太、栗原陵矢両内野手の復帰も迫るが、簡単に居場所を譲るつもりはない。今いる場所を自分のものにする――。そんな覚悟がそこにはある。
(飯田航平 / Kohei Iida)