周東の打撃指標は大幅に向上も…
今季のホークスは主力の相次ぐ故障に悩まされている。近藤健介外野手や周東佑京内野手が復帰し、さすがに一時期に比べると状況は良くなった。だが復帰後も万全ではないのか、近藤はDHでの出場が続き、外野守備には就けない状態。一時復帰した栗原陵矢内野手は開幕前に痛めた右脇腹を再び故障。再度長期離脱に見舞われている。離脱者が戻ってきてもなお、故障の影響を引きずっているような状況だ。
実際に成績レベルでみても彼らは故障の影響が出ているように見える。今シーズン中に故障から復帰を果たした周東、近藤、栗原の3選手について、ほぼフルシーズンで出場した昨季と総合的な打撃成績を比べたのが以下の表だ。値はwRC+(weighted Runs Created Plus)。リーグ平均を100とした場合の打撃傑出度だ。例えば120であれば平均的な打者の1.2倍の得点貢献を1打席あたりに見せていたと考えられる。

これを見ると周東は昨季が103とほぼ平均レベルの打撃貢献だったが、今季は142。平均的な打者に比べて1.42倍の得点貢献を見せている。今季はここまで首位打者争いにも参加。一時離脱があったものの、打撃では好調をキープしている様子が見てとれる(以下、データは7月28日終了時点)。
しかし近藤、栗原は異なる。昨季のwRC+はそれぞれ198、151でパ・リーグの1、2位を独占した。2人の打力がホークス独走の大きな要因だったといっても過言ではない。しかし今季は近藤が147、栗原が98。故障により打席が少ないため安打や本塁打が少ないのは当然だが、1打席あたりの質で見ても大きく落としている。
近藤、栗原は今季、故障から復帰した後もコンディションが万全ではなく、安定して出場できていなかった2人だ。身体の調子が悪いことが打撃成績にも反映されていたのかもしれない。
過去11年の中で群を抜いていた昨季の「83.9」
しかし、この打撃成績の悪化は1つの側面に過ぎない。故障者の不完全なコンディションが打撃以上に影響をもたらしている分野があるのだ。それが守備である。
ホークスは近年、他球団を圧倒する鉄壁の守備力を見せてきた。同ポジションの平均に比べ、守備でどれだけ失点を防いだかを表すUZR(Ultimate Zone Rating)でチーム全体の守備力を見ると、昨季のソフトバンクはなんと「83.9」。平均的なチームに比べ、バックの守備だけで約84点もの失点を減らしたと解釈できる。これは弊社が保有する11シーズン、のべ132球団のデータの中でトップの値だ。
また、ホークスはこの11年間でチーム全体のUZRが一度も平均を割ったことがない。2010年代に入って以降、ホークスは圧倒的な強さを見せているが、その大きな要因としてずば抜けた守備力の高さがあった。

ただ、その守備力に今季は陰りが見えている。今季のチームUZRは8.6。もちろんこれでも平均以上ではあるが、シーズン半分以上を終えての数値としては、2014年以降で最も低いペースである。特に記録的な守備力を見せた昨季と比べると雲泥の差がある。フルシーズン換算で70点以上も失点が増える見込みだ。
昨季との差を生んでいるのが、まさに故障からの復帰組なのだ。昨季と今季でどれだけの変化が起きているのか。フルシーズンの目安である1200イニングあたりに換算したUZRを用いて、昨季との違いを見てみよう。

1200イニングあたりのUZRを見ると、差はあるものの、どの選手も昨季レベルのパフォーマンスができていない様子がわかる。特に深刻なのが栗原の守備である。昨季は平均的な三塁手に比べ、1200イニングあたりでチームの失点を17.9点も減らす素晴らしい守備を見せていたが、今季は-8.3点。むしろ平均よりも失点を増やしてしまっている。リーグ最高レベルの名手が、リーグ下位クラスの守備力に落ち込んでいるのだ。
絶対不可欠な戦力も…首脳陣に迫られる難しい判断
近藤も同様の傾向が出ている。昨季は左翼手の平均に比べて1200イニングあたり28.1点もの失点を防いだ。打撃だけでなく、守備力も一級品であることを証明したが、今季は右翼で1200イニングあたり-2.5点。平均レベルに近い数値だ。現在は守備に就けていないが、就いたとしても圧倒的なディフェンス力はみせられていない。もちろん右翼は左翼に比べて競争力の高いポジションだ。それでも昨季のパフォーマンスを考慮すれば、右翼でこのレベルは十分な力を発揮できているとは言い難い。
栗原、近藤ともに昨季と比べて守備に就けていないというだけでなく、出場したときの守備の質が落ちていると判断してよさそうである。
実は近年のデータ分析により、パフォーマンスに対する故障の影響は打撃以上に守備で大きくなると考えられている。軽微なコンディション不良だからといって無理をして出場を続けていれば、名手レベルの選手でもみるみるうちに守備指標は下がっていく。
今回ホークスで起こっているのは、まさにこれだ。打撃面を考えれば、主力に1日でも早く復帰してほしいと考えるのは当然だ。しかし、ある程度打てていたとしても、万全ではない選手を守備に就かせることは知らず知らずのうちにチームの失点を増やしているのだ。
今季の故障者の多さは“異常事態”といっていい。首脳陣が焦るのも無理はなく、一刻も早く、1人でも多く本来のメンバーをスタメン起用したいはずだ。しかし無理に早めた復帰は選手の本来の力を失わせてしまう。主力を主力でなくしてしまうと言ってもいい。ホークスにはまだまだ多くの故障者が残っている。日本ハムと激しく首位を争っている状況ではあるが、“治りかけ”ではなく万全のコンディションで主力選手を復帰させたいところだ。
DELTA http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。