13年間で一度も笑えなかった秋 福岡で味わった“屈辱”…上沢直之を突き動かす「欲望」

1日の楽天戦に先発した上沢直之【写真:古川剛伊】
1日の楽天戦に先発した上沢直之【写真:古川剛伊】

上沢連載第6回…優勝への思い

 人気企画「鷹フルシーズン連載~極談~」。上沢直之投手の第6回、テーマは“優勝争い”についてです。日ハム時代の2016年にチームは日本一に輝きましたが、自らは怪我で1軍登板ゼロ。エースとして挑んだクライマックスシリーズ(CS)では苦い思い出も――。渇望する日本一への思いを明かしました。

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 13年間のプロ野球生活で1度も笑顔で終えたシーズンはなかった。上沢が語るのは、自らが優勝の“ピース”になりたいという思いだった。

「自分の中で心の底から喜んで優勝の輪に入りたいってのはあるので。そのために、まずはしっかりと成績を残さないといけないなっていうのは毎日思っていますね」

 後半戦初登板となった1日の楽天戦(みずほPayPayドーム)では7回1失点の好投で自身1か月ぶりとなる7勝目を挙げた。今季はここまで15試合に登板して7勝6敗、防御率3.23。まずまずの成績を残している一方で、6月21日の阪神戦(甲子園)から3試合連続で初回に失点。7月は防御率3.86と納得のいく成績を残せなかった。首脳陣からは「1回体をリフレッシュして、また後半戦から頑張ろう」と、オールスター前の7月15日に出場選手登録を抹消された。

「7勝していますけど、6敗もついているので。その6敗分はなんとかできる……なんとかすべき試合もありました。良くない時になんとかしなきゃいけないので。そこがしっかりできなかったかなと思いますね」

 苦戦した原因の1つは、今季からウエートトレーニングを増やしたことだった。「今年は自分が納得できる数字を残せたとして、あと何年かが“そこそこの成績”だったら、それってどうなんだろう」。目先の1年のために進化をおざなりにするよりも、週4回以上のウエートを続けることを選んだ。長い野球人生を見据えて結果を残すためだったが、疲労の蓄積は否めなかった。自身も「正直、その影響はあると思う」と認めた。

日ハム時代の苦い経験「いいシーズンだったとは…」

 日ハム時代、チームは3度にわたってCSに進出した。2014年は2度の先発機会があったが、チームを勝利に導けず。日本一に輝いた2016年は開幕前に右肘関節滑膜ヒダ切除術を受け、1軍登板なしに終わった。そして、2018年は自身初の2桁となる11勝を挙げ、チームも3位でAクラスに入った。ただ、ソフトバンクとのファーストステージで待ち受けていたのは“悪夢”だった。

 第1戦、みずほPayPayドームのマウンドに上がった。エースとして“開幕投手”を任されたが、初回に打者一巡の5失点。3回までに9安打7失点と大量リードを許して降板した。

「気持ちが入りすぎていたっていうのはありますね。いつもと違った。いつもより力が入ってしまっていたし、良くない結果を招いてるなとすごく感じました。大事な試合と思って投げたところで、結局もうその時点で普段と違うことをしいてる。いいシーズンだったなっていう記憶はないです。この球場で打たれた記憶の方が強いです」

 好結果を出しても、残るのは最後の苦い記憶ばかり。日本一に輝いても、その場にいなければ意味がない。心の底から喜ぶには、自らが勝って、チームを勝利に導くしかない。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)