首を振らない“無言の教育” 15歳差のバッテリー…藤田悠太郎が東浜巨の“気遣い”に感じた課題

バッテリーを組んだ藤田悠太郎(左)と東浜巨【写真:長濱幸治】
バッテリーを組んだ藤田悠太郎(左)と東浜巨【写真:長濱幸治】

8-3で勝利も…色濃くにじんだ悔しさ

 チームが勝利を収めても、帰路に着く表情に笑みはなかった。30日にみずほPayPayドームで行われたウエスタン・くふうハヤテ戦。「9番・捕手」で先発出場した高卒2年目の藤田悠太郎捕手は、ファームで調整を続ける東浜巨投手とバッテリーを組み、大きな糧を得た。

 最後までマスクを被り、4人の投手をリードして勝利に貢献した。「楽しみながらプレーできました」と口にしながらも、20歳の表情には悔しさが色濃くにじんだ。「すごくいい球を投げられていたので、もっと自分がどうにかできたのかなと思っています」。自身のリードへの反省の言葉が続いた。

 立ち上がりから印象的だったのは、東浜が藤田悠のサインにほとんど首を振らなかったことだ。その裏には、言葉にならないベテランの配慮が隠されていた。扇の要としてマスクを被った藤田悠が、その“気遣い”の中で掴んだものとは一体何だったのだろうか。

手応えの裏にあった“準備の甘さ”

 試合前、東浜から伝えられていたのは「違うと思ったら首を振るから」というシンプルな約束だった。実際、試合を通しても首が振られることはほとんどなく、藤田悠自身も「結構考えは合っていたんじゃないかなと思います」と、一定の手応えを感じていた。

 しかし、その“合致”に満足することはなかった。手応え以上に痛感したのが、自身の未熟さだった。連打を浴びて3失点した5回の場面を振り返り、「勝負を急ぎすぎました。僕はボールを1球外したかったんですけど、構えとジェスチャーが甘かったです」と反省を口にする。東浜の「ほしがってしまった」という言葉からも、捕手としての責任を改めて感じた。
 
「ヒット性の当たりは少なかったと思うんです。だからこそ守備位置を変えるとか、指示が出せたかどうか。『言っておけばよかった』という後悔の方が多かった」。未然に防げたかもしれない失点だったからこそ、藤田悠の悔しさは募る。細かな状況判断と、それを野手に伝える指示。1球が結果を左右するからこそ、準備の重要性が身に染みた。

マウンドから伝わってきた「無言の教育」

 一方で、東浜はサインに首を振らずとも、投球フォームに緩急をつけながら相手打者を抑えていた。「東浜さんの投球からは、1球に対する意図が伝わってくるんです」。球種は同じでも、投球フォームに変化をつけることで相手を抑えようとする右腕の工夫。ベテランによる“無言の教育”をしっかりと感じ取った様子だった。

「まだまだです」。細川亨2軍バッテリーコーチは20歳を厳しく評価しつつも、「色々と話し合って、2人で決めたことをそのまま試合で出していたと思う。意思疎通がしっかりできていた」と、課題と向き合い、投手に寄り添う姿勢に目を細める。「自分に厳しくできる選手なので、試合に出れば良くなってくる」と、向上心に期待を寄せた。

 悔しさと手応えが交錯した一戦。この経験を無駄にはしない。「そうやって経験させてくださっていると感じるので、ミスがないように準備できることはやっていかないといけないです」。ベテランの大きな懐の中で得た学びと、新たな課題。それらをひとつずつ血肉に変えていく。15歳も離れたベテラン投手とバッテリーを組んだ経験は、必ず将来の糧になる。

(飯田航平 / Kohei Iida)