小久保監督もキッパリ「これで終わる選手じゃない」
球界屈指のアーチストは4度の本塁打王を経験し、通算266発を積み上げてきた。自分にしか理解できない“孤高”の領域で、背番号5は今闘っている。
6-0で勝利した16日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)。山川穂高内野手の見せ場は4点リードで迎えた8回にやってきた。先頭で打席に入ると、左腕・中村稔の変化球を振り抜いた。自身9試合ぶりに生まれた14号ソロで、ダメ押しに成功した。
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開幕から不振に陥り、6月16日に登録抹消。1軍に再昇格した同27日からは6戦4発と復調の兆しを見せたが、7月4日以降は26打数2安打。打率.197にまで下降し、この日のロッテ戦を迎えていた。小久保監督は「こんなところで終わる選手じゃないので。彼のバットで引っ張るくらいの気持ちでやってほしいです」とキッパリ。信念が伝わってくるような、強い語気だった。どれだけ苦しんでいても、期待を込め続ける理由とは――。
相手チームからも厳しいマーク「もがいている」
「なかなか(状態が)上がってこないし、もがいているのはもがいていますけどね。これで終わるような選手じゃないですよ。いろいろ工夫しているし、きょうの練習でも『2発いくんちゃうか』って話をしていたくらいです。あと、100%の力で相手投手も抑えにくる。当たり前ですけど、なかなか簡単なことではないんですよ。我慢するというところと、打つべきボールをとらえられるか。その苦しみはあったと思いますよ。見事なホームランでした」
こう語ったのは、村上隆行打撃コーチだ。指揮官の言葉に同調し、改めて期待を強調した。山川や近藤健介外野手といった打線におけるキーマンは、相手サイドも厳しくマークする存在。「その中でも打って、タイトルを獲ってきている選手ですから。僕らには計り知れないものがあるだろうし、彼らも自分の中で闘っているでしょうから」と、続けて語った。
毎日の打撃練習を後ろから見守っている首脳陣。通算266発の実績を誇る山川の感覚を首脳陣は尊重し、ともに打開策を探ろうとしている。村上コーチが心がけるのは、わずかな変化すら見逃さないことだ。
「(打撃面の修正は)簡単なことじゃないし、こうしなさいっていうレベルの人じゃない。ただ僕から見ている中で、状態が良くなってきた時に『いいね』って言えるように。『そう見えますか?』『違うんですよね』って話になれば、もうOKです。その違いをずっと、黙って見続ける。だから練習からちゃんと見るんです」
コーチ自ら、積極的に助言をすることはない。山川から聞かれた時に、自分なりの“答え”を差し出せる準備は必ずしておく。だから目を凝らして、毎日練習を見つめているというわけだ。「チームの決め事はあるので、ダメな時はちゃんと言いますよ? 彼にもリズムの作り方があるはず。ここをこうする、とかそういう次元ではない。ゲームに入っていけるように、気持ちを作ってあげることだと思います」。言葉をかけることはなくとも、常に寄り添っている。時には大切なあり方だ。
山川が語る練習の重要性「昔ってやっぱり…」
山川本人も、試合前を振り返る。「きょうの練習、最後にクソほど思いっきり振ったんですよ。思い返してみると、昔ってフォームを気にしないで遠くに飛ばすことしか考えていなかった。そしたら体が動きましたから。フォームどうこう考えていくよりもそっちの方がいいかもっていうのも、また引き出しですよね」。シンプルな考えのもと、ただ純粋にフルスイングを続けた。結果に繋がった感覚を、再びきっかけにしていきたい。
頭の中にある打撃理論の数は球界屈指だろう。不振が続く今、過去の引き出しを開けて対処しようとしているのか、それとも新しいものを見つけようとしているのか。山川は「両方です」という。
「過去の引き出しは開けないですね。それはもう戻ってこないので。一番よかったのって、2017年(シーズン23本塁打)ですけど、8年も前のこと。その時なぜ打てていたのかは考えますけどね。その時期は意識しないでやっていたことが、今は意識しないといけなかったりするので。難しいところです」
プロ12年間を経ても未知の道を歩んでいるのは間違いない。周囲に支えられながら、必ずこの苦境を乗り越える。
(竹村岳 / Gaku Takemura)