
伝説となった2017年日本シリーズ第6戦のピッチング
2017年、シーズン54セーブという大記録を打ち立てたデニス・サファテ氏。チームもクライマックス・シリーズを突破し、セ・リーグ3位から勝ち上がってきたDeNAと日本シリーズで激突した。初戦から3連勝を飾るも、その後は連敗を喫し、3勝2敗で迎えた6戦目。舞台は再び本拠地に戻った。サファテ氏は「4戦目、5戦目と落としてしまいました。もし6戦目も負けていたら、私たちはシリーズに敗れていたでしょう」と回想する。
結果的には6戦目に勝利し、日本一に輝いた。サファテ氏が3イニングを投げ切るという“魂の投球”を見せたのは、深い理由がある。ホークスにとっては6戦目で決着しなければいけないチーム状況だった。
レギュラーシーズン143試合、CSの5試合と日本シリーズの5試合を含めて、150試合以上を戦い抜いていた。7戦目に先発見込みだった千賀滉大投手も含めて、投手陣はもう満身創痍だった。結果が全ての短期決戦。DeNAの勢いも踏まえ、サファテ氏は「7戦目に突入していたら、なんでも起こり得るもの。だからこそ、全力を尽くす決断をしました」と振り返る。ホークスにとっては事実上の“最終戦”のような位置付けだったのだ。
150試合以上を戦い…「全力を尽くす決断」
サファテ氏は1点ビハインドの9回からマウンドに上がった。その裏に内川聖一が山崎康晃から同点ソロを放ち、試合は延長戦にもつれ込んだ。「9回に要した球数はわずかなものだったので、10回も私の出番でした。相手の先頭打者に安打を許し、牽制で暴投してしまったんですよね。その後、ロペスと筒香を三振にして、宮崎に対しては四球を与えましたが、最後は打ち取りました」と結果まで具体的に覚えている。そして「当然、裏の攻撃で得点しなかったら私はまたマウンドに上がりました」と、続投の舞台裏を語った。
「ベンチに戻ると、座ってリラックスしたいという思いはありませんでした。(10回を終えた時に)工藤さんに『もう1イニング投げたい』と伝えました。もし得点を奪って勝てば、何ら問題はありません。ただ、メンタル的な部分というか、頭の中ではマウンドに戻るつもりでいました。心の中では、(チームの中の)誰かが打って試合に勝ってほしかったですし、3回を投げざるを得ないということにはなってほしくなかったですけどね」
右腕が強調したのは、プロとしての矜持だ。負けられない一戦で、自分を奮い立たせるものは「フィールドに向かう時のアドレナリン」だという。集中力を高め、完全に試合へと入り込んでいた。「『私はプロなんだ。あの場所にいたいんだ』と。私が3イニング目にフィールドへ戻った際、観衆の『おおお!』という声が聞こえたんです。とにかく私は3つのアウトを奪わなきゃいけないと思っていました」。簡単には表現できない自分だけの“ゾーン”。サファテ氏にとっては、続投するという選択肢しかなかった。
もし延長12回にもつれていたら…マウンドに上がった投手は?
仮に延長12回までもつれていた場合、サファテ氏は「武田(翔太)さんが準備していたと思います」と明かす。ホークスもDeNAも、死力を尽くして戦った。「6戦目に負けていたら、私たちは第7戦で勝っていなかったでしょうね。勢いは彼らの方にあったでしょうから。重要性という意味では、あの試合は最も素晴らしい試合でした」。現役引退から4年が経った今も、栄光の記憶として右腕の胸に刻まれている。
日本一に輝いた翌日、身体に明確な変化を感じた。「飛行機に乗った時に腕というか、すごく疲れていたことははっきりと覚えています」と振り返る。「それ(全力を尽くすこと)こそが勝者のすることです。(6戦目に川島)慶三のサヨナラ打で勝敗が決まって、素晴らしい夜になりました。思いを成し遂げることができた」。全てを終えて、家族のもとに帰る瞬間。色濃い疲労と、それ以上の充実感は忘れられるはずもない。
3イニングを投げ切った5か月後、2018年のシーズンが開幕した。サファテ氏の状態は思わしくなく、4月18日に出場選手登録を抹消。検査のため、米国に一時帰国することになった。「春先の仙台での試合で投げた際、すごく寒かったんです。そこで(山田雄大通訳に)『股関節のどこかがおかしいと思う』と伝えました。痛みも少しずつ酷くなっていきました」。症状を自覚した明確な瞬間だった。
その後は股関節の手術を何度も受け、1軍復帰を果たせないまま、ユニホームを脱ぐことになった。「『あの手術をもし受けなければ……』という思いはありますね。あれでキャリアが本当に終わったと感じています」。激闘に勝利した証でもあり、正解は誰にもわからない。「2017年のあの3イニングを投げていなければ……と思うかもしれないけど、投げていなければ今の自分はいない」。穏やかな表情で語る“キング・オブ・クローザー”は、ホークスファンにとって最大の誇りだ。
【第4回へ続く】
(竹村岳 / Gaku Takemura)