5試合振りのスタメン起用…左肘は「プレーできたので」
“復帰戦”であろうと関係なかった。8点リードの2死走者なし。どんな展開でも全力を尽くすのが、自分だけのスタイルだ。
10-2で快勝した15日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)。山本恵大外野手やジーター・ダウンズ内野手の一発などで大量得点を奪った一戦で、復帰を果たしたのが牧原大成内野手だった。9日のオリックス戦(京セラドーム)では、宮城から左肘に死球を受け途中交代。登録は抹消されなかったものの、この日が5試合ぶりのスタメン起用となった。
「9番・二塁」で出場し、バットでは4打数無安打に終わったが、牧原大成らしさが目に見えたのは8回2死の守備だった。藤岡の打球が左中間に飛ぶと、このイニングから中堅に入っていた牧原大は全力疾走で追った。グラブに当てながらも捕球できず、拳を地面に叩きつける姿からも悔しさがにじみ出ていた。
間近で見た柳町達も驚愕した“決死のダイブ”
「(周東)佑京なら捕っていたと思うので。悔しかったです」。この日スタメン出場した周東佑京内野手は、7回に代走を出されて途中交代していた。圧倒的な守備範囲を誇る選手会長と自らを比較し、感情をあらわにした。8点リードの2死走者なしというシチュエーション。牧原大にとっても復帰したばかりの一戦だった。何度も怪我を経験しても「それ(全力プレー)がなくなったら終わりです」とキッパリ言い切る。どんな点差、どんな状況であろうと全力を尽くすから、背番号8を応援したくなる。
左翼から牧原大のプレーを間近で見ていた柳町達外野手は「僕もプレーに関与していたので、追うのに必死でした」としつつ「ああいうところがマキさんだと思いますし、貫けるのはすごいことです」と率直な思いを口にした。小久保裕紀監督からは“替えの効かない存在”と評され、フルイニング出場も増えてきた28歳。「最後まで切り替えながら、やることをやる。これが一番です」。先輩のプレーを目に焼き付け、自分自身に言い聞かせているところだ。
背番号8と自主トレをともにする緒方理貢は、ベンチからプレーを見守っていた。「センターの経験がある人ですけど、1歩目も打球までもめちゃくちゃ速いなと思いました」。1球に対する執念という面では「練習中に教えられるとかはなかったですけど。“ああいう人”なので。自分たちも見習わないといけないですよね」とうなずいた。隙を見せない集中力は、確かに後輩へと受け継がれている。
宮城から死球を受け、ベンチに下がったオリックス戦。牧原大は首脳陣に「いけます」と訴えた。結果的に「チームに迷惑がかかる」と途中交代を受け入れたが、グラウンドへの執念はどんな時も失わない。「『代わるよ』って言ったんですけど……」。舞台裏を明かしたのは奈良原浩ヘッドコーチだった。
9日のオリ戦…死球で途中交代した舞台裏
「牧原(大)は『ちょっと待ってください』って。さすがに無理だと思ったけど、それでも最初にそういうことを言う選手なんです。近藤(健介)とか(今宮)健太もそうだけど、ファイティングポーズは絶対に崩さないですよね。試合にずっと出てきて、ある程度の地位を築いてきた中でも原点を持ち続けているんだと思います」
この日の8回のプレーにあてはめても「彼の良さですよね。『捕れる』と思ったら、咄嗟に体が反応する。プロ野球選手としてはすごく大事なところです」と奈良原コーチはいう。今季が15年目。育成出身選手としては最多となる664本のヒットを積み上げるなど、自分だけの居場所を作ってきた。「育成から上がってきたという気持ちが常に原点にある。だから、最後のワンプレーにまでこだわる選手」。首脳陣も厚い信頼を寄せる存在だ。
4試合を欠場し、ベンチを温めた。戦況を見つめるしかなかった日々は「もちろん悔しいです。(左肘は)プレーはできたので、大丈夫です」と即答した。マウンドにいたのは6月20日に支配下登録されたばかりの川口冬弥投手。立場を確立するために毎試合、結果を求められる右腕だ。牧原大は「自分の捕れる範囲にきて、捕れなかったから悔しいだけです」と話したが、奈良原コーチは「何より投げているピッチャーが助かりますよ」と代弁した。
「1つ1つ、必死にやるだけ。後先とか、関係ないです。怪我をすればそこまでなので」。常に妥協せず、全力プレーを貫いてきた。どんな瞬間でも、プロ野球選手としての意地とプライドが牧原大成には詰まっている。
(竹村岳 / Gaku Takemura)