2年目左腕が見せた“強心臓”
恐ろしいまでの強心臓ぶりだった。高卒2年目の前田悠伍投手が、鮮やかに待望のプロ初勝利を手にした。13日の楽天戦(楽天モバイルパーク)に先発し、6回を4安打2奪三振。無失点の好投でチームの連敗を「3」でストップさせた。「1人1人丁寧に投げられた。野手の皆さんに攻守ともにいいプレーをしていただいた」と試合後に爽やかに語った。
この試合のターニングポイントは6回だった。連打で無死一、二塁のピンチを招くと、すかさず倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)がマウンドに向かい、「力を振り絞っていけ」と声をかけた。その直後、三重殺でピンチを脱し、場内は歓声と楽天ファンのため息に包まれた。
劇的なプレーが生まれる直前、マウンドでの表情に目を奪われた。ピンチを迎え、相手打者はパ・リーグ打率トップの村林だった。しかし、サインを覗き込む左腕は、緊張どころか、不敵な笑みを浮かべていた。その理由をこう明かした。
マスク越しに感じた1年での“変貌”
「相手の応援も少し大きくなってきていた中で、めちゃくちゃ楽しかったというか。自然と『やってやろう』っていう気持ちになったので。ああいう(三重殺)結果になって良かったと思います」
重圧をものともしない精神力が“笑み”の正体だった。相手の応援も熱を帯びる緊迫の場面だったが、プレッシャーを興奮と力に変えていた。
その姿をマスク越しに見ていた谷川原健太捕手も驚きを隠さなかった。「2軍のときより笑っていたりして、めっちゃ楽しんでいるなとは思いました。こっちも頼もしかったです。2年目のアレじゃないな」と舌を巻いた。
この強心臓は、これまでの経験が育んだものでもある。谷川原は「去年1軍に上がってきたときは、ああいう姿ではなかったので。1年で自信もつけている」と語る。昨季10月1日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)でのプロ初登板は3回6失点と、1軍の壁を前に悔しい思いをした。この日もバッテリーを組んでいたのが谷川原だったからこそ、その成長ぶりは明らかだった。
初勝利も謙虚に見据える高み…「勝てるピッチャーに」
「結果を出し続けるピッチャーというか、勝てるピッチャーになりたい。そして、それを長く継続できるピッチャーになっていきたいです。今の段階ではそういう選手になれないと思うので、満足せずにもっともっと練習をしていきたいなと思います」
笑顔で語った19歳。この謙虚さと、マウンドで見せる堂々とした姿に、今後の期待が大きく膨らむ。次に登板する日は未定だが、マウンドに上がれば再び、見る人の心をワクワクさせる投球を披露してくれるに違いない。
(飯田航平 / Kohei Iida)