2軍の開幕戦で6回1失点…「取り組みの成果が出ている」
3月14日、ウエスタン・リーグの開幕マウンドに上がったのが2年目の前田悠伍投手だった。「1つ1つの球種に手応えを感じた」と振り返る左腕。タマスタ筑後で行われた中日戦で負け投手にはなったが、6回1失点5奪三振の結果を残した。特にこだわってきたストレートは「いつもに比べて、しっかり指にかかっていた」と、納得の表情を見せた。
ただ、掴みたかったのは1軍の開幕ローテーションだった。2軍行きと同時に告げられたファームの開幕投手。それは、目指してきた目標から外れたことを意味していた。「悔しさの方が大きかった」と心境を明かしたが「2軍の開幕も大事な試合。中途半端なピッチングはできない」と、与えられた場所で全力を尽くすことに気持ちを切り替えた。
オフには、カブスの今永昇太投手とともに自主トレを行い、成長するための要素を学んできたが、現実は甘くなかった。開幕ローテへの期待も高まる中で、前田悠の状態をいち早く見抜き、必要な課題を与えていたのが人物がいる。「順調ではないですよね。アピールが足りていないです」。春季キャンプから見えていた課題。一番近くで指導をしてきたコーチが、19歳の左腕に求めるものを明かした。
「正直、物足りないと思うんですよね。(開幕ローテを)勝ち取らないといけない、競争に勝っていかないといけない立場では、まだまだ足りないです」
こう語るのは小笠原孝2軍投手コーチ(チーフ)だ。前田悠は2年目の春季キャンプを1軍にあたるA組で迎えたが、紅白戦や練習試合などの実戦では、その力を十分にアピールできずにいた。球に力が伝わっていないと感じると、試合で打席に立つことがほとんどないにも関わらず、ティー打撃などを練習メニューに取り入れた。下半身の流れからリリースで最大限のパワーを生み出せるよう、試行錯誤を繰り返していた。
「下半身は強いです。だから、それは継続しながらキャンプは過ごしていました。あとはスピードもですが、真っすぐの質ですよね。他の投球は上手なんです。真っすぐ自体も良くなってきてはいますが、もっと良くなるはずなんです。正直に言って時間はもう少しかかると思います。それは本人が一番わかっていると思いますよ」
ストレートの質には回転数や回転の軸など、様々な判断基準がある。先発を目指す中で求められるのは、その基準に達した球を、いかに多く投げ込むことができるのかということ。前田悠は質の良い球と、そうではない球にムラがあることを小笠原コーチは指摘してきた。
「実戦派なので今が駄目でも上手く投球できてしまうところある。そこが彼の凄いところだと思うんですよね。でもそうではなくて、数値とその根拠が必要。“これだから大丈夫”っていうボールを投げないと、本当の意味で1軍で通用しない。去年も痛い目を見ているので」
前田悠自身も、この課題には気がついていた。「キャンプ中は、結果よりも内容だと言われていた中で、内容でもアピールすることができていなかったです」。左腕が振り返った「内容」を意味することこそが、球の質だった。投球の“上手さ”を評価するからこそ、今求めているのは“強さ”。二人三脚で取り組んできた練習メニュー。その成果に手ごたえを感じ始めたのが、14日の開幕戦だった。
「今日は指にかかった球が多かったので、取り組みの成果が出ていると感じることができました。ウエートも見直して、球速も急に速くなることがあると思っているので、そのきっかけと土台作りを小笠原コーチと続けています」
目指していた1軍の開幕ローテ入りには届かなかったが、確かな成長は続けている。「2軍だと言われた時からもう少し長い目で見ようと切り替えました」と、すぐさま新しい目標設定ができるのも、前田悠の強みだ。「彼の持っている力はこんなものじゃないので」。1軍で通用するストレートを投げ込むために――。小笠原コーチとともに、作り上げていく。
(飯田航平 / Kohei Iida)