ドラ1の現実「順位は関係ない」 感じた前田悠との違い…“這い上がる”村上泰斗の現在地

インタビューに応じた村上泰斗【写真:上杉あずさ】
インタビューに応じた村上泰斗【写真:上杉あずさ】

「逆境に立ったときが1番自分の良さを出せる」

 鷹フルは期待のドラフト1位ルーキー・村上泰斗投手を単独インタビューしました。2024年ドラフトで1巡目指名を受け、神戸弘陵高からソフトバンク入りした右腕は、初めてのキャンプをC組でスタート。筑後のファーム施設で鍛錬の日々を過ごしています。ドラフト1位の現実をどう受け止めているのか、様々な思いに迫りました。

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「小さい頃から夢に見ていたプロ野球選手だったので、選ばれて嬉しい気持ちが強かったです。でも、呼ばれた瞬間は1位ということにびっくりしたというか、驚きが強くて……」。右腕はドラフト会議で名前を呼ばれた瞬間をこう振り返る。決して、プロ入り前に名を馳せた選手ではない。甲子園出場もなく、日本代表などで日の丸を背負った経験もなかった。そんな自分がドラフト1位で憧れの世界に飛び込むことができた。まさに夢のようなできごとだった。

 だが、そこで村上が浮足立つようなことはなかった。「入ってしまえば、順位は関係ない。横一線、ヨーイドンでスタートすると思うので。そういうところは謙虚にやっていきたいです」と、18歳らしからぬ落ち着きで受け止めた。「順位は関係ない」という言葉はどちらかというと下位指名の選手から出てくる言葉だが、自然に発することができるのが実に村上らしい。

 プロの世界ではドラフト順位による“現実”がまざまざと感じられる場面も多い。入団会見やその後の取材など、ドラフト1位の肩書きは村上について回る。「自分としてはそんなに、ドラ1と思ってやっていないので、あまり感じることはないです。だけど取材してもらう時や、指導者の方からはドラ1としての期待をかけられたり、いろんな言葉をもらうので。そういうところでの実感はあります」。否が応でも意識せざるを得ない環境であることは日々実感している。「気にしないようにしています」と自らに言い聞かせることもあると明かす。

「実績があるわけでもないですし、自分は実力もまだまだ劣っていると思うので。気にしても天狗になるだけで、謙虚な気持ちでいられなくなると思う。自分は逆境に立ったときが一番、自分の良さを出せると思うので。1位という評価をされることよりも『1位だけどまだ足りていない』とか『もうちょっと頑張ってほしい』といった評価を受けたときの方が燃えるし、その方が嬉しいです。自分の強みは負けず嫌いというか、負けん気が強いところだと思うので、プレッシャーだと感じるところはあまりないです」

 謙虚で真っすぐな18歳。だからこそ、“ドラフト1位”という見られ方に少し重荷を感じているのではないか――。そんな気がかりもあったが、村上の芯は強かった。「逆境に立ったときの方が強くなれる」。これまでの野球人生を振り返り、身に染みて感じていることだという。

ブルペンで投球練習を行う前田悠伍【写真:冨田成美】
ブルペンで投球練習を行う前田悠伍【写真:冨田成美】

 同じく“高卒ドラ1”といえば、1学年上の前田悠伍投手がいる。名門・大阪桐蔭高のエースとして甲子園にも出場し、U-18日本代表としても活躍するなど、既に名の知れた状態でプロ入りした左腕。ともにドラフト1位でのプロ入りではあるが、村上はその立場の違いも理解している。

「実力社会なので。同じチームに入った以上はお互いに将来のエースを狙ってやっていく立場だと思いますが、歳も1つしか変わらない中で前田(悠)さんはすごく評価も高い。前田さん自身も立場を意識して、練習態度であったり、試合の結果なども突き詰めてやってこられていると思うので。ライバル意識というより、今の自分にとっては“憧れ”というか。見習っていけたらなと思って見ています」

 人間観察が好きな村上は、1月に筑後のファーム施設で自主トレに励む先輩たちを数多く見てきたが、最も気になったのも前田悠だった。「自分は朝7時くらいからウエートルームでストレッチをしたり、動きの確認をするんですけど、前田さんは自分が行く時間より前からウエートをしたり、自主トレ期間も1人で早めに出てきて練習していました。1人で何かをこなす姿からも意識の違いなどを感じました」。先輩左腕の一挙手一投足から学ぶものは多かった。

 1年目の春季キャンプを宮崎で過ごした前田悠とは違い、村上のスタートは筑後から。「プレーとかピッチングに関しては、まだまだ自分は劣っているところばかり」と謙虚な姿勢を見せるが、心の中にはしっかりと野望を抱いている。「1年目の大きな目標ではありますが、1軍デビューっていうのがあって。その大きな目標に近づけるための小さな目標が体重80キロであったり、プロの体づくりっていうのが自分の中で明確にあります。まずは小さな目標からどんどん潰していって、大きな目標に繋いでいけたらなと思います」。村上泰斗には村上泰斗の“道”がある。ドラ1の肩書きにとらわれず、信じる道を着実に進んでいく。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)