前田悠伍が“震えた”一流への道 ライバル左腕が重ね合わせたメジャーリーガーの姿

春季キャンプでブルペン入りした前田悠伍【写真:竹村岳】
春季キャンプでブルペン入りした前田悠伍【写真:竹村岳】

カブス今永の教えに重なる共通点…「あのレベルの人は、みんなそうなる」

 ひと回り大きくなった19歳が、キャンプ初日から周囲の視線をくぎ付けにした。昨季はホークスの高卒新人投手として12年ぶりに1軍の先発マウンドに立った前田悠伍投手だ。2年目の今キャンプは、初のA組スタート。初日からブルペンに入った背番号41が左腕を振るたび、一斉にカメラのシャッターが切られた。

 いつだって注目される道を歩んできた。高まり続ける期待に応えようと、無意識のうちに力が入っていた。そう、これまでの自分だったら――。

 前田悠が忠実に守ったのは、世界最高峰の舞台で活躍する先輩からの教えだった。今オフ、カブスの今永昇太投手に師事した自主トレで学んだことは「脱力」の重要性。力いっぱいに腕を振らずとも、ボールは勢いを失わずに捕手のミットへ収まった。投げ込んだ49球に大きな手応えがあった。

「緊張感がある中で力みがちな場面でも、やろうとすることができたんじゃないかと思います」。余計な力を抜こうとする左腕に、実はマウンド上でも変化があった。「ブルッ、ブルッ、ブルッ」。それは昨年までには見られない動きだった。

 肩から腰を揺らすような仕草を見せてから投球動作に入ったのは、1度や2度ではなかった。「力が入ると首から肩が固まってしまうので。でも、あれはただ体を揺らしているわけではなく、体の芯はブレていないんです」。余計な力を抜くと同時に、体の軸を確認するためのアクションだという。

春季キャンプでブルペン入りした前田悠伍【写真:竹村岳】
春季キャンプでブルペン入りした前田悠伍【写真:竹村岳】

 19歳には追い求める姿がある。力感のないフォームから150キロ近いボールを投げ込む今永が語った「脱力投法」の極意。言葉を聞いた瞬間、体に電流が走ったかのような感覚があった。

「イメージは竹とんぼ」

 両手の平で軸に高速回転を与え、高く遠くへ飛ばして遊ぶ、あの“おもちゃ”だ。さらに「胸に腕が付いているイメージ。腕ではなく、胸で投げる感覚」と続ける。胴体を竹とんぼの軸とするならば、左右の腕は“翼”と言い換えることができるだろう。軸が歪んでいれば、竹とんぼだって勢いよく上空を舞うことはできない。自らが追い求める姿が、より鮮明にイメージできるようになったという。

 そんな19歳の変化を早くも実感している人物がいる。「投げているボールが強くなりました。投げ方も本当に今永さんみたいで……。自分がやろうとしていることに似ているので、何を教えてもらったか自分も聞きたい」。そう語るのは、今キャンプでキャッチボール相手を務めている前田純投手だった。昨季、前田悠よりもひと足先にプロ初勝利を挙げた左腕。その特徴も、打者が間合いを取りづらい投球フォームと、実際のボールに「ギャップ」のある投球スタイルだ。

 練習で“相棒”に驚きを与えていることを知ってか知らずか、当の前田悠は理想に近い軌道の使い手である新たなチームメートの投げる球に目を奪われている。上沢直之投手のキャッチボールだ。「力感がなくてもボールがビューっと来るじゃないですか。あのレベルにいる人たちは、みんなそうなるんだなって」。ゆったりとしたフォームから、スピンが効いた“上品”な球に見とれている。

 数多くの刺激を得られるのもA組にいるからこそ。昨春のキャンプはB組ながら高卒ルーキーではただ1人、宮崎入りしたものの、球団が用意した「特別育成プログラム」のもとで周囲とは別メニューだった。「去年はB組で他の選手とは違ったけど、今年は初日からアピールできるので。この1か月が大事」。確かな手応えを掴んだ19歳は、“新たな翼”を手にして飛躍を遂げる。

(鷹フル編集部)